目次
はじめのはじめに
マンション売却相談室/株式会社関谷健不動産販売のホームページにようこそ。
2022年2月に当社が出版した本が「重版」になりました。
アマゾンでも大変な評価をいただいております。そこで、本の冒頭を立ち読み感覚でお読みいただき、より多くの方に内容をお届けしたいと考え、このホームページ内限定で企画しました。
購入の参考、不動産会社選びの参考になさってみてください。ではどうぞ。
はじめに
はじめまして!マイホーム専門の売却プランナーの関谷健と申します。
建築・不動産業界に携わって25年以上。その中で得た知識や経験に基づいた特別な手法で、自宅(マイホーム)を「高く売る」お手伝いをしています。
自宅マンションの売却、特に買い換えは以前と比べると、かなり動きやすくなってきました。いろいろな方法で売買ができるようになってきたからです。
例えば住宅ローンが残っていると、売却ができないと思いがちです。しかし実際は売却も可能ですし、先に売らなくても購入する事だってできます。
今まで住んでいたところをすぐに売らなくても、一旦賃貸に出して住み替えする事もできます。見知らぬ他人が自宅だった家に住む事に不安があれば、自分の両親や兄弟など、信頼できる家族に住んでもらう方法だってあります。
そう、マンション売却の敷居は、考えている以上にずっと低くなっているのです。
この本に目を通す方の中には、「何となく」住み替えを検討している方もいらっしゃるでしょう。もし、今住んでいるところに不満があるようでしたら、ここは住み替えにチャレンジするべきです。この本を参考にしながら、情報収集を始めてみましょう。不満があるところに住み続けるよりも、気持ちよく住める家に移る方が、ずっと人生を楽しめるのではないでしょうか。
ところで住み替える時には、当然の事ながら金銭的負担が発生します。その負担を少しでも減らし、場合によってはプラスにするためには、マンションを高く売る事が重要な要素となります。
では、高く売るにはどうしたら良いでしょうか?それにはまず「絶対に高く売りたい!」という気持ちを持つ事です。
そこから何をどうしたらいいのか――初めての売却では右も左も分からない状態でしょう。でも、ご安心ください。「高く売りたい」という希望を叶えるお手伝いをする、それがマイホーム売却プランナーたる私の仕事です。
私が考える売却のゴールとは、査定価格で売却する事ではありません。できる限りの事をやりきり、できる限り「高く売る確率を高めていく」事だと考えています。
では「高く売る」――そのためには何をしたら良いのでしょうか。
この本では「高く売る」ために何をするのか、何をすれば良いのかを知る事ができます。
私のマイホーム売却プランナーとしての仕事のひとつは、具体的な行動のアドバイスを行う事です。
そのためにはまず、不動産業界の仕組みを理解してもらっています。業界の仕組みが分かれば、「高く売る」ために何をどうすれば良いのか、自然と分かってくるからです。
例えば、不動産業者にも種類があるという事や、査定にも種類があると言う事。またより良い宣伝方法にはどのような事があり、何に気を付ければ良いのか――このような事を知るだけでも売却金額が2割ぐらい変わってくると思っています。
この本では、自宅マンション売却をより「高く売る」に当たって知っておくべき事を中心に紹介しています。
高額売却を実現するために必要な事は、積極的に情報収集を行う事です。大切な財産であるマイホームをより高く売るために、一緒に頑張っていきましょう。
知っているとグッと得する、不動産仲介業者の選び方・付き合い方
自宅マンションの売却を始めようとすると、まず「価格を知りたい」「売却について相談したい」という事から考え始めるでしょう。そしてその考えを解決するためには、売却を仲介してくれる不動産会社が必要になります。そして大切な資産であるマンションを「売ってくれる」仲介業者は、マンションが売れるまで大切なパートナーとなります。
ここでは、信頼できる業者を見つけるにはどうしたら良いのか、どういう業者を選んだら良いのかについてお話ししたいと思います。
地元?ネット?業者はどこで探すのがいい?
高額売却を目指すための第一歩は、より高く売ってくれる不動産業者を選ぶ事です。では、そのような業者はどうやって探せば良いのでしょうか。
スマートフォンやタブレットなどで検索すれば、いろいろな業者が検索結果に出てきます。何百何千、下手すると1万を超える情報が検索結果として表れます。
このたくさんある検索結果からどれを選べば良いのか途方に暮れる事でしょう。またそもそもネットの検索だけで大丈夫かという不安もあると思います。
そう考えると、自然と検索結果の上位にある大手の会社を選びたくなります。
名前の知られている大手不動産会社なら安心感もありますし、物件のクリーニングや荷物の一時預かりサービス、瑕疵担保保証など大手ならではのさまざまなサービスを受ける事もできます。どう転んでも損はしない、そんなイメージを大手は感じさせてくれます。
物件売却を考えた時、大手不動産会社に依頼する事――それは間違いなく無難なチョイスです。
そう、「無難」なのです。大手の看板を頼りに話を進めてしまう事は、相場以上の額を望む事は難しいという事です。
高額売却を目指すのであれば、この「無難」な選択という一本勝負は避けた方が良いと考えています。
では、高く売るためにはどうしたら良いのでしょうか?
自宅マンションをより高額で売るためには、物件に「付加価値」を付ける必要があります。付加価値が付く事で、マンションの価格は3~4%近く上がります。
この付加価値を付ける事ができる業者とはすなわち、物件のエリアを良く知っている業者です。
例えば、マンション周辺にスーパーや学校があるかどうかは、地図を見れば分かるでしょう。しかし、そのスーパーの品揃えや品質、価格がどうなっているかや、学校の評判などは地図を見ても分かりません。ネットの口コミを調べるという方法もありますが、「口コミ」は所詮「口コミ」。疑わしい面があるのも否定できませんし、そもそもその地域の欲しい口コミ自体があるかどうかも分かりません。
やはりそのエリアを利用している人の声をちゃんと知っているかどうかが、より付加価値を付けられるかどうかに繋がります。
“ちゃんと知っているかどうか”という点だけで選ぶなら、間違いなく大手不動産会社よりも地元の不動産会社です。
特に地域密着型の不動産会社なら、建物だけでなくその周辺エリアの事も良く分かっています。長くやっていればいるほど、地元の情報も豊富に持っています。
その結果、物件にさまざまな付加価値を付ける事ができます。
大手不動産会社でもエリア制を取るなどして、地元の担当を設けています。だからそれなりの情報もあると思うかもしれません。しかし大手には転勤というものがあり、大体2年前後で他のエリアに異動していきます。
そのエリアが分かってきたなという頃に他のエリアに移るので、当然エリア担当といえども、持っている地元情報はそう厚くはありません。また最近そのエリアに移ってきた人が、あなたの担当になる可能性もあります。
また転勤があるという事は、その分エリアに対する責任感が薄くなる可能性もあります。
もし自分が担当した案件に何か問題が起こったとしても、異動があれば別の者に責任を押しつけられるからです。
更に扱う物件数も多いので、ひとつやふたつの物件に何か問題が起こったとしても、企業全体が受けるダメージは相対的に弱くなります。つまり地元不動産にとって大打撃となるような事でも、大手なら「痛くもかゆくもない」事だって十分あり得るのです。
一方の地元不動産会社ですが、不動産会社が地域密着型であればあるほど、地域の評判が重要になってきます。ひとつのクレームも命取りと受け止め、親身になって対応してくれるでしょう。
しかし地元の不動産会社にもデメリットはあります。大手であれば、新人営業マンでも接客や知識などはそれなりのレベルに達していますが、地元だと営業マンのレベルに大きな開きがあります。
実は、不動産業というのは比較的就職のしやすい職種なのです。そのため中小規模の不動産会社には「行くところが無いからとりあえず……」というような動機で職に就いている「ヤル気も実力も無い」営業マンも少なからず存在しています。
しかしこのデメリットはメリットでもあるのです。
営業マンのレベルに大きな開きがある、という事は「高額売却請負人」とも呼べるレベルの優れた営業マンも存在していることを意味しています。
地元不動産会社には、私のように大手という枠組みから飛び出し志を持って起業した者や、経験を積み重ねて素晴らしいスキルを持ったベテラン営業マンが少なからず存在しています。このような人たちに巡り会う事ができれば、あなたのマンションは間違いなく相場より高値で売る事ができます。
ではこの玉石混交とも言える地元不動産会社から、「石」ではなく「玉」となる不動産会社・営業マンを見つけるにはどうしたら良いでしょうか。
それにはずばり「会って話をする」事です。いきなりハードルが高いお話をしましたが、闇雲に会って話をする必要はありません。後ほどお話ししますが、ポイントを絞った上で、会いに行ってみましょう。
話をしてみれば、こちらの話をちゃんと聞いてくれる人かどうかがまず分かります。また、その人の印象も分かります。
営業マンの「印象」は不動産売買において一番重要な要素です。何故なら自分が嫌な印象を持つという事は、購入希望者も当然嫌な印象を持つ――つまり買い手が付かないという可能性にも繋がるからです。
担当は会った時のファースト・インプレッションで選んで良いと言っても過言ではないくらいです。
地元不動産会社を選ぶ時のポイントはこれだけではありません。もうひとつ大切な事があります。それは地元不動産会社の中には賃貸物件をメインにし、売買はほとんどやっていない会社もあるという事です。一口に不動産会社と言っても、取り扱う不動産に得手不得手があるのです。
今回ターゲットとなる中古物件の売買を得意としている会社かどうかは、入り口を見ればすぐ分かります。
たいていの不動産会社の入り口には、扱っている物件がいくつも貼り出されています。その中に売却物件があれば、その会社は中古物件の売買を扱っているという事を示しています。でも扱っているだけでは足りません。貼り出している物件の1/3が売却物件であれば、その会社は売買を積極的にやっている証拠です。そこに相談してみる価値は十分にあります。
「玉」となる地元不動産会社を見つけるには、その足を運び、その目で確かめるのが一番です。しかし、闇雲に歩き回って見つけるのも大変です。
地元にどんな不動産会社があるのかは、ネットで検索しても構いません。「(物件がある)地名」「不動産」のふたつのワードで検索して、地元の不動産会社を探す方法がお勧めです。ポイントは、売買を積極的にしているかどうかです。
そして検索して見つけた地元不動産会社にも足を運んでみて、最終的にその目で見て確かめて決める、これがマイホーム売却プランナーとしてお勧めする不動産会社の探し方です。
大切なのは「看板」より「人」
高額売却を目指すなら、大手不動産会社よりも地元不動産会社の「玉」を見つける方がその成功率が上がります。その「玉」とはマンション売買に特化した優秀な営業マン、つまり人です。マンションの売却が上手く行くかどうかは、会社の規模よりも担当の手腕にかかっています。
マンションは説明商品です。大手でも地元でも、売却に当たっては担当がその場にいる事が基本となります。見学に来た購入希望者に対して、マンションの付加価値をしっかりと説明でき、相手に好印象を与える事ができるかどうかが勝負の決め手となるのです。
相手に「いいね!」をたくさん与える事ができるかどうかで、マンションの売値は変わります。
担当の能力は会社の大小とは関係ありません。だからこそ、会社ではなく人で選ぶ事をお勧めしています。
そうはいっても、信頼という点では「小さい会社より大きい会社の方が高い」とお考えの方もいらっしゃる事でしょう。
例えば、「買取保証サービス」というものがあります。買取保証というのは「売れなかった場合、その物件は当社が買い取ります」という保証です。この買取保証が付いている会社と付いていない会社なら、買取保証がある会社の方が信頼できる会社のように思えるでしょう。しかし、この保証にはカラクリがあります。
買取保証があれば、売り出してしばらくしても売れなかった場合、販売を依頼した仲介業者が絶対に買い取ってくれます。売れ残る心配が無く、確実に売れるという保証は、一見すると大変なメリットがあります。
しかし、ここに落とし穴があります。
仮に査定額5,000万円の物件があるとします。買取保証を適用した場合、いくらで買い取ってもらえるかと言うと、査定額の8割――つまり2割引された4,000万円となる事が多いのです。
通常なかなか売れない場合は、査定額から1割安く設定して再販売すると、売れる可能性がグッと高まります。
2割も安くなれば、正直なところ誰かが必ず買います。
要するに「買取保証サービス」というのは、ほぼ意味が無いのです。更に付け加えると、そのサービスは信頼を覆す恐ろしいものとなる可能性すらあります。
何故なら「買取サービス」で買い取った方が会社は儲かるからです。そのため、あえて売れないように販売を長期化させ、買取保証を適用させるという手口を取る事もできるのです。
例えば、先ほどのケースで言うと、査定額通りに販売した場合の報酬は約150万円となります。しかし、買取保証を使って4000万円で買い取り、査定額の5000万円で売却すれば1000万円の儲けが出ます。つまり物件の売却額が同じだった場合、買取保証を使った方が不動産会社の利益は大きくなるのです。
ひとつ例を出しましょう。
Aさんは新宿区で、査定額が約6,000万円のマンションの売却しようとしました。Aさんの希望は早期売却。2ヶ月後には現金化したいと考えていました。
仲介会社Aの場合、1ヶ月で売れなければ、買取保証付で5,100万円という話でした。
当社では1ヶ月間はA社同様にレインズで販売する事を提案し、同時に複数の買取業者へ見積もりも依頼しました。買取業者ならすぐにでも買ってくれるからです。そして一番高い会社の見積もりは5,500万円でした。
買取保証を行っていない当社の方が、保証のある仲介会社より良い条件を出す事ができたのです。
複数の買取業者からの見積もりがある方が、最も良い条件を出す会社をオーディションのように選ぶことができるのですが、買取保証が付いた会社では、他社の買取価格と比較検討する事ができません。
どちらが良いか、一目瞭然ですよね。
より高くマンションを売りたいのであれば、サービスの有無は参考にするだけに止め、売却会社を選ぶ決定事項にしてはいけないと思っておきましょう。
更に不動産の売却では、会社の規模で取り引きの安全性が変わる事は、まずありません。そこが、大手にこだわる必要は無いとお伝えしている根本の考え方です。
マンションの売却が決まり、売買契約を結ぶ時には主にふたつの書類が必要になります。
ひとつは物件の説明書となる「重要事項説明書」、もうひとつは取り決め条件をまとめた「契約書」です。
手順としては、まず「重要事項説明書」を担当が買主側に説明します。ちなみに売主はこの説明を受ける義務はありません。何故なら、売主は売却物件の事を良く知っている上、これから手放す物件がどんなものであるのか、改めて説明を受ける必要が無いからです。
そして「重要事項説明書」の内容に間違いがあり何かトラブルが起こった場合は、その書類を作成し、買主へ説明した不動産会社へ責任が行きます。
次に「契約書」を使って契約を取り交わしますが、この「契約書」は98%がひな形でできており、どの会社でもほぼ同じ内容の契約書が取り交わされます。そして残りの2%が、今回の取り引きにのみ関係する内容となります。
売主はこの2%、特約を記載した部分をチェックする必要があります。この部分は主に売主であるあなたの希望条件となるため、しっかりと目を通してください。条件が漏れていないか、条件の内容は間違っていないか、あなた自身がしっかりとチェックする事で、契約内容の安全性も確保されるのです。
つまり、契約時における「安全性」に関わる部分はわずか2%であり、それをチェックするのはあなた自身です。会社の大きさは取り引きの安全性には関係ないのです。
これで思う存分、比較検討できますね!それでは、話を進めていきましょう。
私は選ぶなら地元不動産会社の「玉」となる人と言いました。しかし大手不動産会社にも敏腕営業マンは確かにいますし、大手に仲介を委託しても全く問題はありません。しかし、高値売却にこだわるのであれば、それが正解とは言えません。大手では平均点以上の取り引きが望みにくいからです。
繰り返しになりますが、地元の中小不動産会社の中には、大手で経験とスキルを積み、高い志を持って起業・独立をしたスペシャリストがいます。彼らに任せれば最高得点で取り引きできる可能性があります。
あなたが不動産売却を考えた時、入社半年と経験10年のベテランだったら、どちらの営業マンを選びますか?間違いなく経験とスキルのある10年のベテランを選ぶでしょう。
更に地元の中にはその上を行く百戦錬磨のスペシャリストが存在しています。
スペシャリストに頼んだら、報酬も法外なのでは……と尻込みする方もいるかもしれませんが、ご安心ください。不動産売買において、仲介業者へ払う報酬――仲介手数料というのは法律で上限が決まっており、法外な値段を払う事は絶対にありません。
つまりスペシャリストでもベテランでも新人でも、誰が担当しても払う報酬は、基本的には違わないという事です。
だとしたら、スペシャリストを選んだ方が絶対にお得ですよね。大手、地元や知人など、複数の人と話をする事で、スペシャリストに会う確率を高めていきましょう。
それでは、具体的にどんな営業マンを選べば良いのか、ポイントをかいつまんでご説明します。
より高い値でマンションを売るためには、いかに相手に良い印象を与えられるかが重要なポイントになります。
では、どんな営業だったら好印象を与える事ができるのでしょうか。
身だしなみがきちんとしているのはもちろんですが、分かりやすい説明ができるという事も大事です。
説明が下手な人は、物件の良さを相手に伝えきる事ができないため、結果として高額売却を成立させる事は難しくなります。説明が上手な担当であれば、買い手は物件に価値を見いだし、高値で買ってくれる可能性がグッと高くなります。
分かりやすい説明をするためには、豊富な知識やさまざまな情報が必要になってきます。また、いろいろな質問に切り返す事ができる力も必要です。いわゆる「引き出し」を数多く持っているかどうかという事が、能力の差になります。
分かりやすい説明ができる人がどうかの見極めは、実はさほど難しい事ではありません。何故なら、売主となるあなた自身が「話が分かりやすい」「感じが良い」と好印象を感じた人であれば、買主側も同じような印象を持つからです。
だからこそ、不動産を選ぶ際は、実際に足を運んで話をする事が大切なのです。そしてそのような人を見極めるためには、会社のネームバリューや規模の大小など、先入観にとらわれる事無く話をする事が必要です。しっかりと人を見ていきましょう。
売買契約は不動産会社と買主とで結ばれますが、それを行うのは担当の営業マン――人です。そしてその担当の手腕で、結果が大きく変わってきます。会社(看板)ではなく人で選べというのは、そういう事なのです。
とは言え、いくら「人」で選べと言っても集客力や宣伝力のありそうな規模の大きい会社に依頼した方が良いとお考えの方もいますでしょう。しかし集客力や宣伝力に関して言うと、会社の大きさによる差はあまりありません。小さな会社でも大手以上に集客や宣伝ができる事もあります。何故かと言うと、この業界では他社と協力し、一致団結して販売する仕組みがあるからです。
だから「規模」ではなく「人」で選ぶ事を勧めるのです。
「そんな事ができるの?」「本当にそのような仕組みなの?」と思われた方は、今後の内容を楽しみにしていてください。そして売却を依頼した会社や営業マンは、より高く売るための役割や仕事は何か、そして何をしてくれる事で成果が出るのかも、この先で詳しくお話しいたします。
最後まで読んでいただけば、不動産売買は会社の規模で決まるものではない事が、はっきりと分かるはずです。
相談は複数の業者で!
不動産会社を選んだら、次は売却について具体的に相談する事になります。売却の第一歩と言える相談は、是非複数の業者で行う事をお勧めします。
複数の業者で相談するという事は、医療で言う「セカンドオピニオン」です。セカンドオピニオンとは文字通りセカンド=第二の、オピニオン=意見。診断や治療法について、最初にかかった医師とは別の医師から、第二の意見を求めるものです。
セカンドオピニオンを行う事で、最初に提示された治療法が正しいのかどうか、違う治療法もあるのかどうかを知る事ができ、患者さんは安心して治療を受けられるようになります。
実は、不動産売買においても全く同じ事が言えるのです。
自宅マンションの売買を依頼する不動産業者は、いわゆる仲介業者。つまり、代理人です。商品を並べた中から選ぶような「決められた」売買とは違い、担当営業マンのやり方、考え方で結果が変わる売買です。
悪い言い方ですが、あなたのマンションの売却は担当営業マンの胸ひとつで決まってしまうのです。
最悪の場合、最善の提案がなされず、担当営業マンの好き勝手にされる可能性もあります。
それは大手だろうが地元の中小不動産だろうが大きな違いはありません。むしろ大手だからこそ、疑う必要があるかもしれません。会社のノルマが社員に課せられる事で、利益が上がりやすい買取業者へ販売して、売り手であるお客様よりも会社の利益や自分の立場を優先することがあり得るからです。
これが今もなお、不動産会社のイメージが上がらない要因のひとつとなっています。
例えば、売却を考えているマンションにローンの残債があるとします。そのために、まず先にマンションを売却してから、新しいマンションを買うという方法しか知らないとします。
この場合、今住んでいるマンションが売れなければ、いつまで経っても先に進めません。そこで担当営業はあなたの限られた知識をそのまま利用して、買取業者へ売却して早期に取り引きを終了させた方が良いという提案します。
買取業者へ売るという事は、その分、安く売る事になります。つまりできるだけ高値で売るという目的からは、かなり離れた結果になってしまいます。
しかし、残債があっても、「先に新居を買ってから売る」という方法が取れる場合もあります。
1社だけにしか相談しなかった場合、このような選択肢があるという事を知らないまま、契約を進める可能性があります。特にこのようにローンの残債があったり、古い物件などで売主自身が「売るのは難しい」と感じている場合は、営業の言われるまま売買契約を結んでしまう可能性が高くなります。
だからこそ、複数の業者に相談する必要があるのです。
物件のセカンドオピニオンを受ける事で、最初とは違う提案がいくつも上がる可能性があります。このいくつも選択肢があるという事が、マンションの売却や住み替えには大切なのです。そしてこの選択肢を得るためには、1社だけでは限界があります。
では、相談先は多ければ多いほどいいのでしょうか?いいえ、そうではありません。適正な数というものがあります。
何故かと言うと相談先が増えれば増えるほど、相談にかける労力も増えていきます。同時に契約を「断る」手間も増えていきます。
私は、相談先は2、3社もあれば十分だと考えています。それぐらいであれば、負担もさほど大きくなりませんし、最適な提案を見つける事もできるからです。
もちろんバイタリティーのある方なら、5社でも10社でも相談していいと思います。しかし多ければ多いほど選択肢が増えるというわけでもありません。
相談は複数で、2、3社がベストであると覚えていただければ十分でしょう。相談先は大手に偏るのではなく、地元の不動産会社や知人から紹介された会社など、違うタイプの会社に相談する方が、違った選択肢が出てくる可能性が高くなります。
業者選びで迷ったら、ここをチェック
最適な提案を受けるためには、複数の業者に相談する方がいいとお話ししました。当然、複数の提案を受ける事になるはずですが、ケースによっては同じような提案を受ける可能性もあります。
そのような時は、どうやって業者を選んだら良いのか、業者選びの決め手は何かをお教えしましょう。
何度も言っていますが、業者を選ぶ時は会社のネームバリューや規模ではなく、担当者が大きな決め手となります。大きな会社は、確かにサービス面で充実していますが、高額売却を目指すのであれば、いかに高く売ってくれるかという点の方が重要だからです。
そして高値で売ってくれるかどうかは、担当者が鍵となります。
高値で売ってくれる人かどうかを見極めるには、ふたつのポイントがあります。
ひとつは人柄。説明が上手で、相手に好印象を与える事ができる人かどうかです。
もうひとつは、売買が得意かどうかという点です。
親身になって対応してくれると、こちらも安心して任せたくなります。しかし親身な人だから高く売る事ができるかと言うと、必ずしもそうではありません。何故なら不動産業者であれば、誰でも売買が得意なわけではないからです。
墨田区のBさんのケースがまさにそれに当たります。
Bさんは自宅マンションを売る事になり、知り合いの不動産屋に販売を依頼しました。旧知であるという安心感から、販売活動など全て任せっきりにしていましたが、一向にマンションが売れる気配がありません。
そこで不安になったBさんは、当社に相談に来られました。
そこでBさんの販売状況を調べたところ、悲惨なものでした。
・販売チラシが見づらい。
・スーモなどの不動産検索サイトに物件が掲載されていない。
・物件のアピールポイントがふたつだけしか無かった。
恐ろしいほどのズサンな販売活動で、売れるものも売れない状態となっていました。
Bさんのマンションは、当初6,200万円で販売していましたが、相談に来た時点で5,280万円まで値下げされていました。
最終的には、5,950万円まで値段を戻して、当社にて契約する事ができましたが、もし、相談に来なかったら最悪の場合5,000万円を切ってしまう可能性もありました。
どうしてこのような事になってしまったのでしょうか。
それは不動産会社には得手不得手がある事を、Bさんは知らなかったからです。
実は、Bさんの知人は主にワンルームの投資物件の販売をメインにしていました。
Bさんはその知人の「普通のマンションも売買しているよ!」という言葉を信じて、マンション売却を依頼したそうです
しかし、実は投資物件の売買と、自宅マンションの売買仲介とは“似て非なる”ものなのです。
投資物件の売買は、「収益」がメインです。そのため、物件の室内を見ずに契約する人も少なくありません。
一方、自宅マンションの売買はマンションの魅力――「住み心地」が重要な決め手となります。“ここに住みたい”と思う物件が高く売れるのです。
つまり投資物件をメインに営業している人は、いかにして物件の魅力を伝えるかというスキルが無いため、高く売る事ができないという事なのです。
Aさんは知人であるという気楽さと、「普通のマンションも売っている」という彼の言葉を信じて売却を依頼しましたが、彼にスキルが無かったため売れ残ってしまっていたのです。
高く売るのであれば、高く売る方法を知っている――売買仲介を、更に自宅用のマンションをメインにしている人に任せるしかありません。
不動産業と一口に言っても、その内容にはさまざまなジャンルがあります。売買仲介以外に、賃貸仲介、賃貸管理、投資用売買・買取再販売業などの業種に加え、取り扱う物件も新築・中古マンション、新築・中古戸建て、土地、太陽光パネル、駐車場など多種多様です。この中で売買仲介をメインに行っている人は、なんと全体の14%ほどです。つまり不動産業者のうち、7人中1人しか売買仲介をメインにしていないと言う事になります。
いくら親身になってくれても、売買が不得意であれば、査定額以上の高値売却は難しくなります。
不動産会社を選ぼうとすると、親の代から付き合いのある不動産屋さんや、友人・知人から紹介された不動産業者に相談を持ちかけるケースもあると思います。こういう人たちは、当然親身になってくれます。しかしその人が売買仲介をやっていればいいのですが、そうでない場合は心を鬼にして業者を変えるべきです。
何故なら、彼らは「マンションを売るため」のノウハウを身につけていないからです。ノウハウが無ければ、思うような結果を出す事はできません。ただ売れればいいと言うのでしたら、任せてもいいのでしょうが。しかし大切な資産を、そのような投げ売りな形で手放してしまってもいいわけはありませんよね。
やはり「餅は餅屋」です。マンションを売るなら、売る事を専門にしている人に任せるべきです。
以前、売却を終えた私のお客様から「実は弟が不動産の営業をしている」という事を打ち明けられた事があります。何故弟さんに頼まなかったのか、その理由を聞いたところ「弟はまだ売買に慣れていないから売却を依頼するなと、不動産業を営む父から言われた」からという答えが返ってきました。
なんと弟さんだけでなく、お父様も不動産屋だったのです。
私は更に、どうしてお父様に頼まなかったのかと聞きました。
答えは「父は売買もできるが、賃貸が中心である事と、関谷さんの話をしたら、そこで進めるべきだと言われたから」という事でした。
まさに子を想う親心だと思いました。業界の事を理解している人は、大きな取り引きは得意である人が携わるべきだという事も知っていたのです。
ではどうやって仲介をメインにしている人を探せばいいのでしょうか。
繰り返しになりますが、簡単なのは地元不動産会社の入り口に飾ってある物件の種類を見る事です。取扱物件の1/3以上が売買物件であれば必ず売買をメインにしているか得意にしている人がいるはずです。片隅に申し訳なさそうに売買物件が展示してある場合は、相談はしない方が良いでしょう。
また不動産会社のホームページをチェックして売買物件がどれくらいあるか確認するのもいいでしょう。もちろん、直接担当に売買仲介をメインでやっているかどうか聞くのも手です。
とにかく、売買仲介をどれくらいやっているかが、業者選びの決め手になるのです。
つまり、業者選びに迷ったら、提案をした業者がどれだけ仲介をメインにしているか、どれくらいのキャリアがあるのかを確認し、最後は「この人なら任せられる」と思えるかどうかで決めると良いのです。実力やキャリアも重要ですが、最後の決め手は「人柄」です。
自分が魅力を感じる人であれば、当然買い手も魅力に感じる人です。売買仲介のスキルがあり、更に魅力を感じる人が担当となれば、あなたのマンションは間違いなく高く売れるでしょう。
担当の本気度を上げる「魔法の言葉」
任せる業者が決まったら、次はいよいよ売却に向けて実際の動きが始まります。ここからは、担当の営業マンがメインとなって動いていきます。しかしより高値で売りたいのであれば任せきりにしては絶対にいけません。
売主自身が、より高値で売りたいという気持ち、ヤル気を見せる事が何よりも重要です。そのヤル気で、担当の態度も行動も変わってくるからです。
もし「お任せ」にして、売却を担当に丸投げしていたとしたら、どうなると思いますか?
不動産会社の利益と、売主の利益は必ずしも一致しません。つまりできるだけ高値で売りたい売主の気持ちと、会社の利益を出したい営業マンの気持ちは同じではないのです。
それゆえ営業マンのペースで販売してしまうと、会社の利益を優先するあまり買取業者へ販売したり、さっさと売って利益を確保したいがために、販売価格の値下げを早い段階で提案される可能性が出てきます。また任された事を良い事に、同時に扱っている他の物件を優先し、自分の物件は後回しにされる恐れもあります。
買取業者への販売は、マンションを安く売るという事を意味しています。得するのは不動産会社たちで、売主には大したメリットはありません。
だからこそ「より高く売りたい」という気持ちを、しっかりとアピールし安易な販売を防ぐ必要があるのです。
買取業者などへの安易な販売を防ぐためには、「業界の仕組みを知っている」と言う感じを出すと更に効果的です。その「知っている感」を出る魔法の言葉をお教えします。
その言葉とは次のようなものです。
「今から私がやっておく事は何?」
「ネットに掲載できたら教えて」
「レインズに掲載したら、そのチラシをチェックしたい」
「売主も見られるレインズのパスワードを教えて」
「“囲い込み”はやらないですよね」
「売れなくて空室になった時は、ちゃんと立ち会いをお願いします」
これが担当営業マンに是非言って欲しい言葉です。でも、パッと見てどういう意味か分かりませんよね。
大丈夫です。この本を最後まで読んでいただければ何を言っているのか、どうしてその言葉を言うのか、その理由までちゃんと分かるようになります。
「レインズ」や「囲い込み」というふたつの専門的な言葉も、この後しっかりご説明しますからご安心ください。そしてこの本を読んで、「高く売る」ために必要な事が分かれば、自然とこのような言葉が出てくるようになります。
まずはこの言葉を伝えられるようになる事です。そうすれば担当も「高額売却」へ本気になってくれる事間違いなしです。
仲介業者は途中で変えても大丈夫?
いろいろ吟味して選ぶ不動産仲介業者ですが、1社だけしか契約できないと思っていませんか?実は仲介業者に売却を依頼する時、複数の会社に依頼する事ができます。これを「一般」で依頼する、という言い方をします。
対して1社だけに依頼する事を、「専任」で依頼するという言い方をします。
専門的な話になるのですが、不動産の売買を行う場合、仲介業者と媒介契約というものを結ぶ事になります。
この媒介契約には大きく「一般媒介契約」と「専任媒介契約」のふたつに分かれます。「専任媒介契約」は更に「専属専任媒介契約」と専属ではない「専任媒介契約」に分かれます。
一般媒介契約を略して「一般」。複数社に仲介を依頼できる契約ですが、更に仲介業者を通さず、自力で買い手を見つけて直接契約を行う事も可能になります。
対して「専任」――専属専任媒介契約は、他の宅建業者に重複して依頼する事を禁じる契約です。
「専属専任」媒介契約と「専任」媒介契約の大きな違いは、専属契約では自分で見つけてきた買い手(知人・身内や買取業者など)と契約を結ぶ事ができる事に対し、専属専任媒介契約ではそれができないという点でしょう。この点以外、大きな差は無いと考えて差し支えはありません。「自分でも買い手を探してみたい!」という方でも結べる媒介契約があるという事です。
では売却を依頼する時、1社だけに依頼するのと、2社以上に依頼するのとどちらがいいと思いますか?
答えは「どちらでも構わない」です。
この後に解説する「囲い込み」を回避したい方は、複数社に依頼する「一般」で依頼する方が得策です。しかしいくら複数社と依頼できるとはいえ、いきなり3社以上に依頼する事は避けた方が良いでしょう。
どうしてかと言いますと、複数依頼する事は、当然、複数の広告が物件情報サイトに掲載される事になります。
同じ物件の広告が複数出る事は、物件売却にとってかなりのマイナス要素となります。ネットを検索して、実際に同じ物件がずらりと並んでいるのを見ると、どう感じるでしょうか?
「安っぽく見える」
「売れなくて、焦っているように見える」
「雑な感じがする」
などのネガティブな印象を持つ事でしょう。それは相場よりも安く売れる可能性が高くなる事を意味しています。
一般的な商品の売買であれば、売っている店が多ければ多いほど売り上げが上がります。しかし、不動産は“1点もの”であり、その価値が全てだからです。
最初は窓口をひとつかふたつにして、その価値を高めてくれる会社にヤル気と責任を持ってもらうようにすべきです。
ところで、不動産仲介業者を「これ」と決めたら、売れるまでずっと同じ会社と契約し続けなければいけないかと言うと、そんな事はありません。
仲介業者は途中で変える事もできますし、「専任」から「一般」に、またその逆の「一般」から「専任」に変える事もできます。
媒介契約の期間は、最大で3ヶ月までと法律で決められています。(※一般媒介契約は法律の定めはありませんが、国土交通省の定める標準媒介契約約款というものの中で、3ヶ月以内でとされています)3ヶ月以内であれば、1ヶ月でも2ヶ月でも契約できるということです。
つまり仲介業者や内容に不安を感じた場合、契約期間を短くして様子を見ることもできるというわけです。
そして契約期間が過ぎても物件が売れなかった場合、同じ会社と契約続行も当然できますが、思い切って他の業者に契約し直し、再スタートを切ることも可能なのです。
「一般」から「専任」、「専任」から「一般」に変えて、それぞれ成功した事例がありますのでご紹介します。
まずは「一般」から「専任」にして成功したケースです。
先ほども少し述べましたが、普通の商品ですと、扱っている店が多ければ多いほど良く売れます。そして不動産も同じように、たくさんの会社に依頼した方が良く売れると考える人も少なくありません。
中央区のBさんもそうでした。
たくさんの会社に依頼した方が、絶対に良いと思い5社と媒介契約を結びました。
その結果、レインズの画面に同じ物件情報が五つ並ぶ事になりました。
スーモなどの物件情報サイトにも同じ情報がずらり。
ひたすら同じ物件が並ぶと、業者にとっては売主が手当たり次第に売却を依頼している姿が容易に想像できますし、購入希望者にとっては、売れなくて焦っているもしくは何か物件に問題があるのかもという印象を持ちやすくなります。
売れ残って赤札が付いているように見られているのに、売っている当の本人は全く気づいていない――こんな状況では、売れるものも売れなくなります。たくさんの会社に依頼しているのに、一向に売れる気配が無いため、Bさんは当社へ相談にいらっしゃいました。
Bさんとお会いした時、私は業界の仕組みや買い手の心理、専任と一般のメリットとデメリットをいろいろ詳しくお伝えしました。
結果、Bさんは自分の売却プランが悪循環に陥っている現状を理解する事ができました。そして納得していただいた上で、当社と専任契約を結びました。レインズや物件情報サイトの情報もひとつに整理する事でマイナスイメージを払拭でき、業者や購入希望者からの問い合わせも増やす事ができました。
更に私は後述する「正当な販売方法」を合わせて行う事で、無事、Bさんのマンションを売却する事ができました。
では次に「専任」から「一般」に変更したら売却がスムーズに行った例をご紹介します。
専任で売れない場合、ふたつの理由が考えられます。
ひとつは価格が高いという事。もうひとつは販売活動が良くないという事です。
その原因には、営業マンや仲介業者が、売主の利益より会社の利益を優先しているからという事が考えられます。
不動産仲介業では「両手取引」というものがあります、
不動産売買がまとまると、売り手・買い手それぞれが手数料を支払います。本来は、売り手・買い手それぞれに仲介業者がいるので、手数料も各々の不動産会社に支払われます。しかし不動産会社としては、この売買手数料を双方から貰いたい――つまり二重取りしたいわけです。
そこで他社へ物件情報が行かないようにして、自社の顧客だけで売買契約をまとめようとします。自社だけという狭い範囲で販売活動を行うため、思うように購入希望者を見つけられず、結果として売れるものも売れなくなります。
そういう状態に陥ってしまった時、「専任」から「一般」2社に変更するとどうなるでしょう?
一般への変更とは、仲介業者にしてみると、契約を他社に取られたら報酬が0になりかねないと言うことです。
専任から一般に変更された業者は、せめて売主からの報酬だけでも手に入れたい、タダ働きはしたくないという気持ちに変わります。そこで買い手を探す同業他社とも連絡を取り合って、買い手を広く探すようになるはずです。
その結果、買い手が見つかってマンションの売却が成立するというわけです。
売れなくて相談に訪れる方とお話しすると、往々にしてこのような「業者の囲い込み」が判明する場合があります。
そういう場合は、その業者との専任契約を止めて別の業者にお願いするか、2社一般にする事を勧めます。そして仕切り直した結果、無事に売れていった例を数多く見てきました。
最高の条件で売却するためには、それなりの試行錯誤も大切になってきます。契約期間が過ぎれば、他の方法を試したり、他社へ変更する事ができるというのは、大変な強みです。
高く売るためには、仕切り直しのチャンスもちゃんとあります。だから安心してくださいね。
コラム①こんな営業マンには注意!
営業マンも人である以上、いろいろなタイプがいます。そして残念な事に、人柄が良くても、年齢がそれなりでも、実力が伴っていない人もいるのも事実です。
そんな見極めが微妙で、注意が必要な営業マンの特徴をご紹介します。
・こちらの話をちゃんと聞かない
一番注意すべきなのが、この話を聞かないタイプです。
こちらがどうしたいのか聞かないうちにどんどん話を進めていったり、「できるだけ早く売りたい」という希望を伝えただけで、その理由を聞かないままどんどん話を進めていってしまいます。
全て相手のペースになってしまうので、気がつけばこちらの希望とはほど遠い結果で終わってしまう事になりかねません。
マンションの売却、特に買い換えが伴う場合は「担当と相談」しながら進めるのが理想です。「相談」すらできない担当は切り捨ててしかるべきです。
・やたらと買取業者への売却を提案する
不動産仲介業者にとって理想とも言える取り引きは、直接エンドユーザーへ売却するよりも買取業者へ売却する事です。その方が業者にとってメリットが大きいからです。
買取業者へ販売するメリットのひとつに手数料が挙げられます。 買取業者へ販売した時点で最初の手数料を、更に買取業者からその物件の販売委託を受ければそこでもう一度手数料と、上手くすれば二度手数料を得る事ができます。
更に業者間での売買ですから、手続きもスムーズに進み担当は楽に取り引きができます。楽で儲かるから、担当としてはできれば買取業者へ売りたいのです。
しかし売主にとっては違います。物件の相場は決まっているので、買取業者を挟んだ分、売主が得る金額はエンドユーザーへ直接売却した場合より安くなります。
早く売れる以外、売主にメリットはありません。築年数が古い物件などは、この提案が出されやすいので注意した方がいいでしょう。
早い段階で買取業者への販売を提案してくる営業は、自分や会社の都合しか考えていない証拠です。
・とにかく売りたがる
先の内容とかぶる面もあるのですが、とにかくすぐに売りたがる営業にも注意が必要です。
実は自宅マンションを売買して住み替えを行う場合、すぐのすぐ売ったりする必要は無いのです。買った後に売っても良いですし、今まで住んでいた方を一旦賃貸に出すなど、いろいろな方法があるのです。更に場合によっては売らない、何もしない方がいい場合もあります。
売主の事情にあった提案をせず、とにかく先に売ろうとする姿勢はいただけません。いくつもの選択肢を提示し、どれが最善か検討するべきなのです。
もし、担当からひとつの提案しか出ないようでしたら、迷わずセカンドオピニオンを受けましょう。どのタイミングで売ったら良いのか、賃貸に出した場合のメリットなど、いろいろな提案を知ることができるはずです。
・上司と二人で来る
一見すると担当が1人より二人だと心強い気がします。しかし良く考えてください。実際に現場を受け持つのは部下の方です。そして、上司と同行している場合、部下はあれやこれやと口出しをしにくくなります。
実務を受け持たない上司が主に話をしても、実際はどうなるのでしょうか。空約束ばかり話される可能性もあります。
上司と二人で来ても、部下が中心となって打ち合わせができれば問題は無いのですが、上司だけが話をし、担当者が口を出さない場合は要注意です。肝心の担当者の実力や人柄が分からないからです。
そして何より、あなたの話よりも上司を気遣って話さないという会社寄りのスタンスがあるという事が問題です。
営業マンも人間ですから、いろいろな個性を持った人がいます。当然欠点もあり、完璧ではありません。そんな中で注意した方が良いタイプは「話を聞かない」「話し合いにならない」営業です。「話を聞く」「しっかり話し合う」事をしてくれる営業を選ぶようにしましょう。
コラム②「囲い込み」って何?
本文に出てきた「囲い込み」という耳慣れない言葉、これは不動産業界の悪しき習慣の呼び名です。その悪しき習慣とは、簡単に言うと売り出した物件を「独り占め」する行為です。
ひとつの物件の売買が成立した時、不動産仲介業者には売主・買い手それぞれから手数料が支払われます。つまり、自社で扱っているマンションを、自社の顧客へ売ると、売り手買い手の双方から手数料を貰う事ができます。
つまり「一粒で二度美味しい」というわけです。
これを「両手取引」と呼びます。できる限り自社間で取り引きすれば、その分手数料収入を多く得る事ができ、多く利益を得る事ができます。
ところで、不動産を売る時に絶対にやらなくてはいけない事があります。法律によって不動産仲介業者は決められた期日までに「レインズ」にその物件を登録し、そこを通して売り出し中であるという事を全国の不動産業者へ通知しなくてはいけないのです。
言い換えると、全国から広く買い手を募る事は法律で保証されているのです。
しかし不動産仲介業としては、他社が買い手を仲介すると買い手分の手数料が貰えなくなります。つまり得られる利益が半分になってしまうわけです。
そこで物件情報を他社から隠して、自社顧客以外その物件を買えないようにしてしまう事があります。買い手側の手数料を確実に貰うためです。
この物件情報を隠して利益を確保する行為を「囲い込み」と呼ぶのです。
そもそもこの売り手と買い手、双方を同じ会社が担当できる事自体、おかしな話なのです。裁判で争っている被告と原告に同じ弁護士が付いているようなものだからです。利益や条件が相反するのに、どちらも同じ担当が代理人をしているというのは、誰が考えても奇妙な事です。しかし日本の不動産業界ではそれが当たり前となっています。
この「囲い込み」で得するのは業者だけです。
売る方にとっては、少しでも高く買ってくれる人に売る方が得になります。しかし「囲い込み」をされてしまうと、買い手が限定され、最高価格での売却が難しくなります。
そのため「囲い込み」が数年前に明らかになってから、あちこちで非難の声が上がりました。
非難の声が上がって以降、表だって「囲い込み」を行う業者は少なくなりました。しかし依然として影で密かに行われている事も事実です。
残念な事に、この「囲い込み」を完全に防ぐ事はできません。しかし、自分の物件を囲い込ませないための自衛策はあります。
「レインズに掲載したら、そのチラシをチェックしたい」
「売主も見られるレインズのパスワードを教えて」
「“囲い込み”はやらないですよね」
本文中にも紹介したこの3つの言葉を担当営業マンに言ってみましょう。売主が「囲い込み」を知っているというアピールは、そのまま仲介業者へのけん制になります。
「知っている」事こそ、不動産業界の悪しき習慣に対する一番の武器となるからです。
不動産業界の中には「騙される方が悪い」という考えが一部にあります。だからこそ、「騙されない」ようにする姿勢が、何よりの防衛手段となります。
「ちゃんとした手順で売ってくださいね。あなたが何をしているのか、こちらはしっかりチェックしていますよ」という「騙されない」姿勢を担当営業マンに見せる事。この姿勢が、囲い込み防止に繋がります。
コラム③「買いたい人がいる!」上手い話には裏がある?
毎日のように、不動産売却のチラシがポストに入っていませんか?
特に某社のチラシにはあなたの物件を「買いたい人」の魅力的な条件が書かれています。
例えば「2LDK・55平米、築15年」の我が家だと、売値は4,500万円から5,000万円ぐらいだと考えていたとします。
しかし、チラシには同条件で予算6,500万円と書かれていたりします。
このような好条件を目の当たりにしたら、当然気になりますよね?
しかし、私は気になりません。
不動産業界を良く知らない人にはとても魅力的に思えるこの広告ですが、プロの目からするとオトリ広告・誇大広告にしか思えないからです。
本文の査定部分でも触れますが、その会社はチラシの金額で売る気は全くありません。チラシの目的はあくまでも「仲介契約」や「媒介契約」といった販売契約を取る事だからです。つまり「売りたい人」と接触したいのです。
それでも、どうしてもチラシの内容が気になるなら――次のような対応を取ってみてはいかがでしょう?
1.チラシ以外の他社で査定を受ける。
査定を受けた結果、あまりにもチラシの金額とかけ離れていたら、そこで諦めが付くはずです。オトリ広告かどうか確かめたいのであれば、この方法が一番の安全策だと言えます。
2.チラシの価格で他社から販売する。
信頼できる仲介会社を見つけられたら、2週間だけチラシの金額で販売して販売してみる方法です。
どうして2週間かと言うと、それだけあればレインズを通じてチラシをポストに入れた会社に情報が行くからです。本当に「買いたい人」がいれば、その会社を通じて売買契約が成立するはずです。念のため、担当営業マンにチラシを見せて、チラシをポストに入れた会社に連絡してもらうといいでしょう。自分から直接伝えても構いません。
当然の事ながらその値段では売れないので、2週間経ったら“適正価格”に下げて再販売すれば何の問題ありません。
3.その会社に問い合わせる。
思い切って、その会社にその値段で「買いたい人」がいるかコンタクトを採る方法もあります。一番すっきりする方法ではあります。
注意して欲しい点は、深入りさせない事です。
彼らの狙いは3ヶ月の専任媒介契約を貰う事です。とにかく断る事をお勧めしますが、どうしても断り切れない場合は販売契約を2週間だけの短期契約にしましょう。
2週間あれば、チラシのお客様に物件の情報が行きますし、「買いたい人」が本当にいれば、チラシの値段で契約が成立するはずです。
この「買いたい人がいます」はチラシだけではありません。
営業トークでも出る事があります。
商談時にこの台詞が出る場合、それはチラシと同じように目的は媒介契約を取りたいからです。
例えば、不動産仲介会社Aと商談をしているとします。
査定額は5,000万円で、他社査定も4,800~5,200万円の範囲内で大きなズレはありません。
そこでA社の営業マンが、「当社にあなたのマンションが売りに出るのを待っているお客様が3人います。是非当社に売却を任せていただけませんか」と言ったとしたら、どうしますか?
更に「そのうちのひとりは、5,200万円で買いたいと言っています」と畳みかけられたら?
彼らの目的のひとつは、媒介契約を取る事です。もし、媒介契約を先に結んで、結局そのお客様がいなかったら、騙されたような形で、販売をその会社に依頼する羽目になります。
本当に「買いたい人がいる」のであれば、あえてすぐ媒介契約を結ぶ必要はありません。まずその人を案内してもらい、本当に買うのであればそこから契約を進める形にすればいいのです。
そしてすぐ「買いたい人」に売る必要もありません。詳しくは本文でお話ししますが、「買いたい人」へ売る事は“セカンド・ステージ”とし、まずはレインズや物件情報サイトを利用して広く全国から買い手を募る方が高く売る可能性があるからです。
「買いたい人がいる」この言葉が出た場合、裏がある可能性が高いと思ってください。そして慎重に事を進めるようにする事が何よりも大切です。
宅地建物取引士
株式会社関谷健不動産販売 関谷健
3.マンション売買で知っておくべき五つの事柄
ここでは、売買契約の時に理解しておいた方がいい事柄についてお話しします。不動産を取り引きする時、「知っている」「知らない」では結果に大きな差が出るからです。
「知らない」という事は、もっと高く売る方法があった事を分からないまま、マンションを売却してしまうという事です。あなたの大切な資産を守るにはまず「知る」事から始めましょう。
①ますは「レインズ」について知ろう
もう何回かこの言葉を出していますが、「レインズ」って何?と思う人がほとんどだと思います。まずはこの「レインズ」についてご説明しましょう。
「レインズ」とは不動産売買において必要不可欠なシステムの名称です。
ざっくり言うと、「不動産情報を広く交換し、契約の相手方を迅速に見つけるため」のシステムで、会員となっている不動産業者しか見る事ができない、一般には非公開のデータベースです。
正式名称は『Real Estate Information Network System(不動産流通標準情報システム)』。この英名の頭文字を取って「RINS(レインズ)」と呼んでいます。
レインズは国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構が運営しています。その目的は「不動産取引の透明性を確保し、適正・円滑・迅速な取り引きを図る」ためです。同時に会員しか、登録・閲覧ができないという、限定公開制のシステムでもあります。
会員のみの限定公開ですが、売却物件は指定された期日以内に登録しなければいけないと法律で決まっているため、不動産仲介業者は100%レインズを利用できると考えて大丈夫です。
レインズの良いところは、なんと言っても情報量が豊富な点。法律によって登録しないといけないので、仲介業者に売却をお願いした物件が余す事無く掲載されています。
そして売主にとって大きなメリットは、全国の業者に情報が行くので、それだけ買い手が見つかりやすくなるという点です。
情報は、不動産会社の規模の大小とは関係なく全国の業者に公開されます。大手だろうが地元の小さな不動産屋だろうが、レインズに掲載されるという点では、差は全くありません。
もし宣伝をたくさん出している大手不動産会社の方が、より物件を売りやすいと考えていると考えているのなら、それは大きな間違いです。大手も中小も、レインズという同じ土俵で同じような宣伝をしているからです。
1社にしか仲介を依頼してなくても、レインズによって販売は「全国」の「全業者」が行ってくれるようになります。仲介業者はあくまでも「窓口」でしか無いのです。そもそも仲介業とは、あなたの物件を売るためのサポートをするのが役割です。
不動産売却において、レインズはこのように大変心強いシステムです。しかしデメリットもあります。それは会員以外には公開されていないため、物件情報が掲載されているかどうか、またどのような内容を掲載しているかを確認する事ができないという点です。
更に不動産業界の慣例として、レインズの掲載情報を売主に確認する事が無いまま登録するため、自分の物件がどのような形でレインズに掲載されているか知らないまま販売を行っているケースがほとんどです。
つまり間違った情報が掲載されていたり、重要なアピールポイントが欠けていても、それを気づかないまま広告をしている可能性もあると言う事です。恐ろしい事です。
また、登録は義務づけられていますが、登録期間の定めはありません。そこで業者によっては掲載証明書が発行された時点で落とす――レインズへの掲載を取りやめるケースがあります。これは、他社にその物件を売らせないためです。
同じような目的のため、間取り図などの図面を載せないで登録している場合もあります。とりあえず掲載はするけれど、レインズを通して販売する気が無いという状態です。
いわゆる「囲い込み」を行っているのです。
では何故業者は「囲い込み」を行うのでしょうか。
それは不動産会社が儲かる仕組みと関係があります。
コラムにも書かせていただきましたが、仲介業者は物件の販売をした時、売り手・買い手双方からそれぞれ手数料を貰います。つまり、売り手だけでなく、買い手の仲介もした方がよりたくさん手数料が貰える事になります。これを両手取引と呼んでいます。
企業としては、少しでも多く収益を上げたい――つまりできるだけ「両手取引」で物件を売買したいわけです。そこで他社に自社の物件を見つけられないように「囲い込み」を行うのです。
しかし当然この行為は売主の利益とは相反します。全国さまざまなところから買い手を探す方が、より高く売る事ができるからです。少しでも高く売りたいのであれば、自衛をするしかありません。
一番の自衛策はレインズの内容を確認する事です。
基本的にレインズは、会員となっている不動屋さん以外は見る事ができません。しかし物件のオーナーに限っては、自分の物件情報の一部を見る事ができます。
確認の手順は、
1.「登録証明書」を依頼会社(媒介契約の締結会社)から貰う。
2.そこに記載されているURLからレインズにアクセスする。
3.「売却依頼主向けログイン」をクリック・
4.「登録証明書」に記載されている「IDとパスワード」を入力してログインをする。
以上です。
重要な事は「登録証明書」という書類がある事を知っている!という事です。この登録証明書は、レインズに物件を登録すると自動的に発行されます。
つまり、登録証明書があるという事は、すなわちレインズにちゃんと掲載されたという証拠でもあります。
レインズにログインした後、確認して欲しい点は次のふたつです。
1.登録日が依頼(媒介契約日)から一週間以内に登録されているかどうか。
2.「図面」が見られるかどうか。
特に図面のチェックは「囲い込み」が行われているかどうかの重要な指標になります。
もし図面が見られなければ、レインズに図面が掲載されていない=「囲い込み」が行われている可能性が高くなるからです。
また、レインズ登録前に、何をどう載せているのか、載せて欲しい事がちゃんと入っているかなど、内容の確認をする事も大切です。そうする事で、積極性を担当に伝える事もできますし、より高値で売れるチャンスも増える事になります。
レインズ自体はメリットの多いシステムです。しっかり活用して自宅マンションの高額売却を目指しましょう。
②査定の基準とは?
では次に知って欲しい事は、「査定」です。
実は不動産業界における査定は、私たちがイメージするものとは異なっています。
“不動産の査定”と言うと、貴金属や自動車などの中古品を売る時に受けるものと同じようなものとイメージする方が多いと思います。
しかし、これら中古品の売買と不動産の売買とは大きく異なる点があります。
それは、査定を出す相手がそれを「実際に買い取るかどうか」という事です。
貴金属も自動車も「査定」を出した会社がそのまま買い取りを行います。高値で査定を出したところは、その値段通りの高値で買い取ってくれます。
一方の不動産ですが、不動産仲介業者は査定を出しても買い取りません。あくまでも売買の「仲介」なので、高い金額を出しても必ずしもその値段で売買するとは限らないのです。
実は、不動産の査定額とは、「過去に成約した類似物件」の価格に基づいて出されているケースがほとんどです。過去の取り引きデータという事実に基づいた数字から出すので、本来、査定額は同じになるはずです。
つまりいくつもの不動産会社に査定を出しても、大差ない結果になるはずなのです。
しかし、実際に査定額を出してもらうと、会社によって金額に大きく差が出る事があります。
例えば
A社 3,000万円
B社 2,850万円
C社 4,000万円
というような査定が出るとします。
この場合、3,000万円行くか行かないかぐらいが妥当な査定額であると判断できます。しかし何故か、1社だけが飛び抜けて高い金額で査定を出しています。どうしてそのような金額になっているのでしょうか?
答えは簡単。その金額にする事に意味があるからです。
高額査定を出した会社は、100%その金額で取り引きを成立させるつもりはありません。言い換えれば、その金額で売る気は無いという事です。
売る気が無いのに、高い金額を付ける理由は二通りあります。
ひとつは売却を考えているオーナーの気を引くためです。
「ここならより高く売ってくれるぞ」と思わせ、オーナーとの媒介契約を結ぶのが目的です。そして査定額より安値で売っても、不動産会社には手数料収入が入るので、損は無いのです。
もうひとつ考えられる理由としてその物件を「集客」に使おうとする事です。いわゆる「客寄せパンダ」です。
例えば、本来なら2,000万円のマンションの査定を3,000万円で出します。しかし実際にはその物件は売りません。そしてその物件目当てで来た客には同じ価格の別物件を案内します。
つまり、その物件は「飾り」にしておいて、別の物件を売りつけるのです。これをやられると、売主はいつまで経っても売れない物件を抱える事になって金銭的にも精神的にも損害を被る事になります。
何度も述べていますが、本当に高く売りたいなら人を良く見て選ぶ事が大切です。査定が高かったという数字を理由に選んではいけません。「査定額の高い低い」と「実際の販売を依頼する事」は分けて考えた方が良いのです。
飛び抜けて高い金額にも注意が必要ですが、査定に関してはもうひとつ注意して欲しい点があります。それは「査定には2種類ある」という事です。
不動産売買での買い手は、2種類あります。
ひとつはその物件のユーザー。
もうひとつは買取業者。
このどちらかに売るかで、当然査定額は変わってきます。
マンションの最終的な売却価格は変わらないのですが、買取業者はユーザーに「転売」する事で利益を得るので、当然その分安く買い取る事になるからです。
つまり、買取業者向け販売の査定は一般ユーザー向け販売よりも安くなるという事です。
実際に私が担当したKさんのケースで見てみましょう。
Kさんは60代のご夫婦で、世田谷区にある築35年のマンションを新築時からお住まいになっていました。お子さまの独立と奥様ご実家への転居が決まった事から、自宅マンションの売却を決意されました。そこで安心感のある大手不動産会社に販売を委託しました。
そしてKさんは、その不動産会社を通して数社から査定の見積もりを受けました。不動産会社の担当営業はその見積もりの中から一番高く出した会社へ売りましょうと提案しました。
しかしKさんは考えました。「マンションは大切な資産。ここで決めるのではなく、他にも聞いておこう」と。
そう、セカンドオピニオンを行う事を決めたのです。
そしてKさんは私に相談へ来たのです。
先に結論を言いますと、私は大手不動産会社を通して受けた見積もりの最高額よりも1,100万円高い額で売りました。査定額3,600万円のマンションを4,700万円で売ったのです。
実はKさんが受けた査定は、買取業者へ販売するための査定だったのです。私に相談へ来なければ、気づかないまま安く売っているところでした。
不動産会社は、直接ユーザーに販売するよりも買取業者へ販売したがる傾向があります。理由はふたつ。
1.早く取り引きができて楽だから……プロ同士ですから、やり方も決まっておりスムーズに短時間で取り引きができます。
2.より儲かるから……何故儲かるかと言うと、手数料を多く貰えるからです。
まず「両手取引」となるので、売却時に売主からの手数料と業者からの手数料が入ります。これだけでも十分ですが、更にその業者からエンドユーザーへの販売(転売)を委託されたら、そこで更に手数料を手にする事もできます。つまり、買取業者と取り引きする事で、不動産の仲介業者はひとつの物件で4回も手数料を貰う事が可能なのです。
要するに買取業者へ販売する行為とは、売主の利益は後回しにして会社の利益を優先しているという事です。
Kさんのような古いマンションの場合は、特に買取業者へ販売しようとする傾向が強くなります。また売主自身も「売るのが難しい物件」と思い込んで、買取業者への販売で妥協してしまいがちです。
しかし古い物件でも、ちゃんと売る事はできます。買取業者とユーザーで、手にする金額が2割も変わってきてしまうとしたら、あなたはどちらを選びますか?当然、「高く売れる」方に決まっていますよね。
査定を受ける時に注意して欲しいのは
1.査定額を高額で出すところには注意する
2.査定額は一般ユーザー向けなのか、買取業者向けなのかを確認する
この2点です。
判断が付かなければ、セカンドオピニオンを受け客観的な意見を求めるといいでしょう。そこで数社から出された査定の「カラクリ」が分かるはずです。
そして何度も言いますが、査定は査定です。
査定金額で不動産業者を判断せず、担当営業マンの「人柄」を含め、総合的に判断し高額売却を目指すのがベストです。
③仲介手数料とは?
査定の部分で、仲介手数料について触れましたが、ここでもう少し詳しくご説明しましょう。
不動産仲介業者は、不動産売買の仲介をする事で手数料という収入を得ています。
手数料については、各会社で設定する事が可能ですが、上限は法律で決まっており、売買価格の3%(+6万円)以内となっています。
さて、この手数料ですが売り手側も買い手側も仲介してくれた業者に支払います。
つまり、3,000万円でマンションが売れたとします。売主は売り上げの3%=90万円を仲介業者に支払います。買い手も同様に、売り上げの3%=90万円を仲介業者に支払います。
要するに、合計6%の手数料がひとつの取り引きで発生するという事です。
そしてここから、日本独特の制度についてご説明します。
日本では、買い手側と売り手側の仲介業者が同一の業者でも良い事になっています。これを難しく言うと「双方代理」と言います。
この双方代理制度ですが、先進国で認められているのは日本ぐらいです。アメリカやフランス、ドイツなどでは認められていません。
理由は簡単です。
売り手はできるだけ高く売りたい、買い手はできるだけ安く買いたいという希望を持って取り引きに臨みます。つまり、それぞれの利益は相反しているわけです。しかし「双方代理」になると、それぞれが求める事は真逆なのに、同じ代理人で話を進めている状態になってしまうからです。
言い換えると、民事裁判で争っている原告と被告、それぞれに付く弁護士が同じ人だったら?と同じ事です。これは誰がどう見ても「無理がある話」ですよね。
しかし日本の不動産業界では、この双方代理が何故か認められているのです。
不動産業界において、双方代理の大きなメリットは、売り手・買い手双方から手数料を貰う事です。つまり「手数料を二重取り」できるのです。これがいわゆる両手取引です。
手数料は各会社で決めて良いので「この場合の手数料はいただきません」なんて事も可能なはずですが、まずやっているところはありません。それどころか積極的に「二重取り」しようとする傾向すらあります。何度か触れている「囲い込み」も、この手数料を双方から貰いたいがために横行している悪い習慣です。
双方代理の大きなデメリットは、高額売却が難しいという点です。他社と協力しながら仲介する取り引きであれば、もっと高値で売れるはずなのに……という結果になる可能性が高いのです。
双方代理で良いところとすれば、手続きがスムーズで早く終わる事ぐらいです。しかし、それだけのために数百万、場合によっては数千万円損しても良いのか、ですよね。
高く売るためにはどのようにしたらいいのかは、この後改めてお話しします。
ここではもうひとつ、手数料について注意して欲しい事を言わせてください。
マンションを売る時にコスパ(コストパフォーマンス)も気になりますよね。高く売れても、諸経費が高かったら……。とすれば、削れるところは削りたいと思うのは当然です。
しかし、個人的な経験から言わせていただくと、コスパを気にして自己判断で「無駄」を切り捨てると、かえって「損」をする方は結構いらっしゃいます。
最初に説明しましたが、手数料は会社ごとに決める事ができます。つまり、手数料を半額や無料にしても良いわけです。
もし同じような提案内容で、一方はキャンペーンで手数料無料、もう一方は普通に3%取る業者だった場合、あなたはどちらを選びますか?
払わなくていいものは、誰だって払いたくはありません。当然、手数料無料の業者を選びたくなりますよね。しかし、それは間違いです。
手数料が無料という事は、当然、手間暇はかけてもらえない可能性が高くなります。「両手取引」で、あまり高くない額で売られてしまう可能性も高いでしょう。
良く考えてください。
手数料無料で、2,400万円で物件が売れたとします。
しかし、手数料を満額支払うところでは、同じ物件を3,000万円で売ってくれるとします。
手数料無料の場合、実際手に入る金額は2,400万円で変わりません。
3%の手数料を取るところでは、3,000万円から手数料90万+6万円を支払った場合、手に入る金額は2,904万円です。
どちらが得をしているか、一目瞭然ですよね。
本当に得したいのであれば、手数料を満額払ってでも最高値で売ってくれる業者を選ぶべきなのです。もちろん、物件がどれくらいの値で売れるかは、売ってみないと分からないものです。手数料が安くても、最高値で売ってくれる可能性も否定できません。
ただし、手数料無料をうたっている場合、その会社は必ず「囲い込み」をして自らの会社で買い手を見つける必要があります。
何故なら、通常のようにレインズで全国から買い手を募り、他社を経由して買い手が見つかった場合、手数料を得られない――タダ働きになってしまうからです。
他社の協力を得ないで、自分たちだけで買い手を見つけようとすると、取る手段はひとつです。
それは安くして販売する事です。
高く売りたい場合は、手が届くか届かない価格で販売します。そして高く買ってくれるお客様を探すためには、他社の協力は絶対に必要となります。
しかし安く販売する場合は話は違います。今はいろいろな事が簡単に検索できるネット時代、価格が安ければすぐに買い手が集まり、取り引きする事ができます。
つまり、手数料無料だった場合、売主であるあなたから手数料を貰えないために、その不動産会社は囲い込みをして買主から手数料を貰わなくてはいけません。そのために販売価格が安くなってしまう確率が高くなってしまうのです。
先日、世田谷区で安いマンションが売りに出されていました。
調べてみたところ、思った通りレインズには掲載されていませんでした。そして販売会社は手数料無料を売主に宣伝している会社でした。
可哀想なのは売主です。
手数料無料の不動産会社に依頼する方は損得で考えやすい方です。少しでも得をしたくて手数料無料の会社に仲介を頼んだのでしょう。
売りに出されていたマンションの相場は7,500万円。しかしそのマンションは6,700万円で販売されていました。
その方は200万円の手数料が無料になる事に心を引かれ、800万円安く取り引きしたのです。その結果600万円も手取りが減った事になります。しかし恐らく本人はそんな事になっているとは夢にも思わず、早々売却でき、更に手数料200万円分得したと思って喜んでいる事でしょう。
囲い込みで売却した場合、相場から5~10%近く安く取り引きされる傾向があります。しかし時間をかければ、囲い込みをされても相場で取り引きできる可能性もあります。
売り急いでない方や、「高く売れれば売ってもいいけど、そうでなければ無理に売らない」ぐらいのスタンスでいる方なら、手数料無料の業者に仲介を依頼しても良いかもしれません。
しかし、不動産売却プランナーとして私がお伝えしたいのは、「手数料は業者選びの選択肢にしてはいけない」という事です。
重要なのはいかに高く売ってくれる人かどうかです。高値で売れるかどうかは、担当営業マンの腕にかかっています。優秀な人に任せられれば、満足の行く取り引きを行う事ができます。
手数料の仕組みを知る事は、不動産業界の仕組みや営業マンの気持ちを理解する事にも繋がります。そして手数料にこだわらず、信頼の置ける営業マンがいる不動産会社を選ぶ事も忘れないようにしてください。
④「一括査定サイト」を使うタイミング
自宅マンション売却を考えていろいろ調べると、必ず「一括査定サイト」というものが目に入ると思います。
ネットで気軽に、かつ一度で複数の査定を出るので、一見すると大変便利なサービスに思えます。
しかし「査定を受ける」という目的で査定サイトを利用する事は、はっきり言ってお勧めしていません。特に自分の物件がいくらぐらいか「価格を知りたい」だけなら、絶対に止めるべきです。
何故かと言うと、とにかく“売り込み”がすごいからです。
一括査定を受けた後、EメールやDM(ダイレクトメール)だけならまだしも、営業からの電話や直接訪問されるなど、激しい営業攻撃にさらされる事になります。
ネットだから「気軽に査定」したつもりが、逆に何社もの営業からの売り込みに辟易してしまうという結果になります。とにかく軽い気持ちでは絶対に使わない方が良いでしょう。
更に一括査定サイトでは、複数の会社が同時に査定を行う仕組みであるため、妥当な価格よりも高めな査定額を提示される傾向があります。
何故なら営業にとって何より重要なのは、査定に来たユーザーと「いかにしてコンタクトを取るか」だからです。そこで高い金額を出して何としても目を引こうとするのです。
しかし、先ほどお話ししたように、査定額は本来“同じ”になるはずです。
そもそも査定額は、過去の取引データ基づいて出される客観的な数字です。当然、違いは無いはずです。だから引っ越しや中古車のように、他社と見積もりをして結果を比べても、あまり意味が無いのです。
自宅マンションの大体の金額を知りたいのであれば、スーモなどの物件検索サイトを使う方が良いでしょう。自分のマンションと似たような物件を2~3件ほど探せば、大体いくらぐらいで売られているか知る事ができます。
また類似物件の成約価格を見たいのであれば、レインズマーケットインフォメーションで調べる事もできます。
レインズは、会員となっている宅建業者のみ閲覧可能なデータベースですが、一部のデータは一般にも公開されています。それがレインズマーケットインフォメーションです。
このレインズマーケットインフォメーションでは、レインズが保有する実際に売買が行われた物件の価格(成約価格)などの情報を検索する事ができます。自分のマンションと同じような物件が、過去いくらで売れたのかが分かれば、大体の査定額の予想も付くはずです。
このように、一括査定サイトをわざわざ利用しなくても、物件の値段を知る方法はいくらでもあるのです。
では一括査定サイトは「百害あって一利なし」なのでしょうか。 いいえ、そんな事はありません。使い方次第では大変便利なサイトになります。
一括査定サイトで是非利用して欲しい機能は、不動産会社の検索機能です。
よりマンションをより高く売るのであれば、地元不動産会社の方が付加価値を付やすく、その分高く売る事ができるという事は、すでにお話ししています。
しかし地元不動産は賃貸をメインにしているところも多く、仲介をやっているかどうかが分かりにくいのも実情です。
そこで一括査定サイトを使って調べてみるのです。マンションがある地元で検索して出てきた不動産会社は、間違いなく仲介をメインもしくは仲介を積極的に行っている業者です。そこからピックアップして相談を持ちかければいいのです。
すでに不動産会社の目星が付いていたら、査定サイトを通してコンタクトを取るという方法もあります。また、あえて査定してもらい、数社から査定書を貰って“研究”するという方法もあります。
査定書には価格算出をするために近隣の事例が数件添付されています。複数査定を依頼すればどんな物件と比較して査定額を出したのか、それを見比べる事ができます。
査定を高く出したいがために、駅からの距離だけを類似させ、築年数が浅い物件と比較していたという事は、ままあります。査定書を見れば、それを知る事ができるのです。
しつこい営業攻撃に耐える事ができれば、それなりに使えるサイトである事に間違いはありません。
マンションの売却を考えた時、何より基本は「人と会う」事です。一括査定サイトは会うためのきっかけです。一括査定に出した時点で、マンション売却はスタートします。利用する時は、“何となく”ではなく、その先を考えて利用するようにしましょう。
⑤少しでも高く売るなら「正当な販売方法が一番」
不動産業界の「裏事情」も含め、高く売るために必要な知識をお話ししてきました。そして最後に絶対知っておいてもらいたい事が、「正当な販売方法」です。
何故わざわざ「正当な販売方法」について話さなければならないのかと言うと、それは不動産仲介業の「儲かる仕組み」と関わりがあるからです。
不動産仲介では、早く取り引きを終わらせた方が儲かります。取る手数料の上限は決められているため、じっくり時間をかけた取り引きでも業者間でさっさと済ます取り引きでも取り分はそんなに変わりが無いからです。
例えば、3,000万円だった物件を3ヶ月かけて4,000万円で売ったとします。不動産業者が得られる手数料は120万円です。
同じ物件を、買取業者へ3,000万円でささっと売ると、手数料は90万円。
一見すると、高く売った方が儲かっているように見えますが、4,000万円で売った物件は売れるまで3ヶ月かけていたので、利益を月単価に換算すると40万円になります。
買取業者に売った場合は、すぐに成約するわけですから月単価は90万円のままです。
担当ひとりが抱えられる案件数には、当然限界があります。とすると買取業者へ次々売りつけ、どんどん新しいクライアントを受け持っていくのと、ひとつひとつの物件が高く売れるまで、じっくり受け持つのと、トータルで考えるとどちらが売り上げ的に多くなるか、簡単に分かりますよね。
売却の回転率を上げて、総売上額を伸ばしていく方が、不動産会社にとって“儲かる”のです。特に売却の相談が多い会社は、この考え方で取り引きを進める傾向があります。会社の方針なのかもしれません。
しかし不動産会社が扱っている物件は数十、数百あるかもしれませんが、自分が売りたいマンションはたったひとつです。大切な資産を無駄にしないためにも、安易に買取業者へ売ってしまう事は間違いなく避けるべきです。
正当な販売方法を知っていれば、営業から買取業者への販売や何か他の提案されても「まずはここから始めてください」と断る事ができます。だからこそ知る必要があるのです。
その正当な販売方法とはすなわち、
「国土交通省が推奨する販売方法で、高く売れる確率が最も高い方法」です。
私はこれをファースト・ステージ(第一段階)とも呼んでいます。
では国土交通省が推奨する販売方法とは何か?
それは「レインズに掲載して販売する事」です。これがファースト・ステージです。あまりに普通の事ですが、重要な事です。
レインズに掲載すると、その物件の情報が全国の不動産会社に広まります。その数約12万社。多くの不動産会社に物件情報を伝える事ができるので、思いも寄らないところから思いも寄らない買い手が見つかる事もあります。
また、物件近くの不動産会社では、「自社のホームページに載せたい!」「チラシを配布したい!」などと販売協力をしてくれるので、販売力も高まります。その場合、もちろんプラスで宣伝費も発生しません。不動産会社も買い手が見つかれば手数料収入が得られるので、他社物件を宣伝するメリットも大きいのです。
しかしレインズに掲載しても、なかなか買い手が見つからない場合もあります。その時は不動産会社からの提案を改めて聞いてみましょう。
これを私はセカンド・ステージ(第2段階)と呼んでいます。
不動産会社に物件売却の相談をすれば営業マンから「こうしたらいい」「ああしましょう」など、いろいろな提案が出されます。あなたにとって最良とも思える提案もあるでしょうし、何か“裏がある”提案もあるかもしれません。しかし何にせよこの提案は一旦保留にし、ファースト・ステージ――まずはレインズに掲載する事から始めましょう。
そして掲載してから数ヶ月経っても売り手が見つからない場合、保留にしていた提案を実行するのです。
不動産会社からの提案は魅力的ですし、プロの言う事は間違いが無いと思えるでしょう。しかし私の経験から言うと、ほとんどの場合ファースト・ステージから実施する事で良い結果を出すのです。
まずはレインズに掲載、次に不動産会社の提案を行うという「2ステップ販売」こそ、あなたの大切な資産を守り、より良い結果を出してくれるやり方なのです。
それはたとえあなたの物件を「買いたい」という人がいるという話を聞いてもです。
あなたの物件が査定額5,000万円だったとします。もし、担当営業マンから、「あなたの物件を5,200万円で買いたいと言うお客様がいる」と言われたらどうしますか?
この場合、5,200万円で買いたいという人はセカンド・ステージと考えます。
売り方としては、まずレインズに5,200万円よりも高い値段、例えば5,400万円として売り出します。全国に5,400万円で買ってくれる人を募るのです。
もしかすると、ここでこの値段で売れるかもしれません。場合によっては5,200万円で買いたいと言っていた人が、その5,400万円で買うかもしれません。
5,400万円では売れなかった場合、ここでセカンド・ステージに移ります。
値段を5,200万円に下げて、再度全国から購入希望者を募りつつ、「買いたい」と希望していたお客様の予算に合わせるのです。
このように高値での売却を目指すのであれば、たとえ買いたいという人がいても即決は避けるべきです。もっと高い値で買う人がいる可能性があるからです。
まずはレインズを使って、全国から高値で買ってくれる人を探してから、営業マンの提案にのる――セカンド・ステージに移るべきなのです。
高く売りたい、この希望を叶えたいのであれば、まずは「正当な販売方法」を実施する事。それが何よりも大切です。
さて、この章を通してあなたは「知るべき」事を「知る」事ができました。これであなたのマンションを“安く”売られる事が防げるようになったのです。しかし、ここで満足してはダメです。
より高く売るにはどうしたらいいのかについては、この後の章でお話ししましょう。
コラム④
業者は0か100で動く
不動産仲介業はボランティアではありません。当然収益を上げなくてはいけません。不動産仲介業の場合は、不動産売買が成約した時の手数料が利益となります。
手数料は、成約価格の3%+6万円までと法律で決まっています。高く売れればその分、手数料も増えます。しかし不動産会社は手数料をより多く取るかどうかでは動きません。
不動産仲介業者にとって、物件をより高く売るという事よりも、売れるか売れないかが重要なのです。
マンションが1,000万円高く売れるかどうかは、オーナーにとっては非常に大きな問題です。しかし不動産会社にとって、1,000万円の手数料は30万円です。この30万の売り上げのために、どれくらい労力をかけてくれるかです。
不動産会社が重要視するのは、より「高く売る」のではなく、いかに「手数料を貰う」かです。そのため、取り引きのある買取業者や、物件を探して自社に相談に来ている顧客へさっさと売りたがります。
自社の顧客へ売れば、「両手取引」として手数料も2倍取るのでその分売上も多くなります。
買取業者への販売も、手続き関連がスムーズに行くので、労力という“コスト”が少なく済む上、その物件の転売も引き受ければ更に手数料を得る事もできます。
不動産会社にとって大切なのは「売れるか」「売れないか」です。少しでも高く売りたいというオーナーと目的は同じではないのです。そして営業マンが受け持つ販売件数が多くなりやすい会社ほど、その意識は強くなる傾向があります。
例えば、都内にあるマンションの売却を大手不動産会社へ相談するとします。その会社では100%買取業者へ販売しているため、相談者には「この物件は買取業者以外は買い手が付かない」と言い切ります。売り手に疑問を挟む余地すら与えないのです。
もちろん、そんなわけはありません。実際にそのマンションに居住するユーザーへ売る事もできますし、間違いなくその方が高値で売却できます。
しかし買い手を探す労力をかけるなら、今後も付き合いのある買取業者へさっさと売ってしまった方が、不動産会社にとって都合がいいのです。
このように、不動産会社は売れるか売れないか、つまり0か100で動きます。
100で動いてくれればいいのですが、恐ろしいのが0で動いた場合です。
0、つまり全く売れない場合、不動産会社にもメリットは無いと思いますよね。ところがそうではないのです。0とはすなわち、ショーケースの中に陳列された商品やマネキンが着ている服と同じ状態なのです。
マネキンが着ている服が気に入った場合、マネキンから服を脱がせて買いますか?違いますよね。1点もの以外は、ストックから同じ商品を取って購入します。
不動産も同じ事ができるのです。
あなたのマンションが“0”の物件とされた場合、あなたのマンションを買いたいと希望した人が来ても決して不動産会社は絶対に売りません。類似物件へ誘導し、そちらの物件を売るのです。
あなたの物件が“1点もの”となるまで、それが延々と繰り返しされるとしたら……ゾッとします。
それを防ぐには「知る」事です。査定のカラクリや両手取引などの不動産業界の内情や、高く売るために何をすべきか、この本を最後まで読んでいただければ「知る」事ができます。それがあなたの資産を守る何よりの武器となります。
少しでも高く売ろうとする事は、「知る事」。すなわち騙されないようにする事でもあるのです。
コラム⑤
こんな裏行為が……?不動産業界の闇の実態
コラムで不動産業界の「黒い」部分を次々と紹介しているような感じですが、孫子の兵法曰く「敵を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず」です。満足の行く取り引きを行うには、良いところだけでなく、悪いところもちゃんと知る必要があります。
中でも究極の「黒い」話がこちらです。
不動産会社にとって、いかにして手数料を得るかが重要です。そのための手段のひとつが「囲い込み」です。
物件を取り引きする時、一番儲かるのは売り手も買い手も自社の顧客である場合です。会社としては、できれば情報は他社に渡したくないと思うのは当然の事でしょう。
しかし法律によってレインズに登録する事は義務づけられています。これによって物件情報は全国の不動産会社に知られる事となります。
レインズは使いたくない、が、使わなくてはならない――この矛盾が裏行為を生み出します。
それは会員限定公開という閉ざされたシステムを逆手に取った情報操作です。
レインズは、会員登録された宅建業者しか見る事ができません。つまりオーナーは、自分のマンションの情報がどうなっているか、IDとパスワードを要求しない限り確認ができないのです。
レインズには販売図面――物件の文字情報と図面情報が掲載されます。図面情報とは間取り図です。レインズに掲載されている内容とは不動産のチラシと大体同じ内容だと思って大丈夫です。
このチラシ内容を、オーナーがチェックする事はまずありません。考えると妙な事なのですが、掲載前も掲載後も、オーナーは見る事が無いまま売りに出されているのです。
不動産会社の中には、オーナーの確認ができないのを良い事に、物件の情報や図面を全く入れない状態でレインズに登録します。これで、他社がこの物件を買い手に紹介する事が事実上できなくなります。
更に悪質なのは、レインズに登録して「掲載証明書」を手に入れたら、即、掲載を取り消す方法です。登録が無いので、他社に物件情報が行く事がありません。取り引きできるのは自社の顧客のみです。
これは、オーナーがレインズの内容を確認できないという前提で業者が行っている「囲い込み」です。しかし最近の改正によって、オーナーは自分の物件のみですが、掲載内容の一部を見る事ができるようになりました。
しかしこれをやろうとしている、場合によってはやる可能性がある不動産会社は、間違いなくこの事を伝えないでしょう。
そこで、媒介契約が成立したら、是非この言葉を言って欲しいのです。
「レインズに掲載したら、そのチラシ(販売図面)をチェックしたい」
「売主も見られるレインズのパスワードを教えて」
これで、掲載内容を不正に操作したり、勝手に掲載を取り下げる事が不可能になります。
しかし、その上を行く裏行為もあります。
掲載もちゃんとしているし、掲載内容もちゃんとしている――この場合、当然他社からの問い合わせが入ります。
問い合わせに対する返答は、担当営業以外にさせないで、担当営業に答えさせるのです。
「まだ案内ができません」「申し込みが入っています」と。もちろん、それは事実とは違います。
これが悪質な点は、会社ぐるみでやっているのに、個人の責任にしている事です。
囲い込みがマスコミに取り上げられて問題になって以降、表向きは「弊社では囲い込みをやっておりません」というスタンスを通す会社が増えました。(それ以前は、会社ぐるみで当たり前のように行っており、新人営業マンの中には、それが不正行為であると知らなかったなんて時代もありました)
しかし、実際には囲い込みはなくなっていません。あくまでも「個人の責任」で会社がさせているのです。
これをやっているかどうか確かめるとしたら、誰かに頼んで問い合わせてみるか、どこかの業者の振りをして自分で電話をかけるしかありません。
実際、囲い込みが蔓延している事を示すデータがあります。
囲い込みとは、売り手・買い手双方から手数料を貰う事です。
売り手から3%、買い手から3%。囲い込みをすれば合計6%の手数料を得る事ができます。俗に言う「両手取引」です。
囲い込みをしなかった場合、手数料は3%かそれ以下になります。
ここで大手各社の平均手数料率を見てみます。
3%に近い数字であれば、両手取引率は低くなります。
逆に6%に近ければ、両手取引率が高くなるという事です。
住宅新報告社、住宅週間新聞に掲載された2017年の平均手数料率は以下のようになります。
・M社 5.3%
・S社 5.2%
・ST社 4.7%
・T社 4.1%
この数字から大手の会社の多くが、「両手取引」をかなりの割合でやっているというのが分かります。
5.3%の会社の場合、なんと両手取引率は82%となります。
これはつまり、10件のうち8件は両手取引であるという事を意味しています。
両手取引の全てが囲い込みというわけではありません。しかし、かなりの物件を囲い込まなければ、この数字にする事は不可能です。
信頼関係で成り立つべき不動産会社と、騙し騙されの間柄になるとは何とも悲しむべき事です。
しかし一部業界の中に「騙される方が悪い」「知らない方が悪い」というスタンスが、あるのもまた事実です。でも安心してください。業界の人間全てが、そのような考えで動いているわけではないのです。
私のように、会社の利益ではなく、顧客の利益に立って動ける者も少なからずいます。だからこそ、不動産会社を選ぶ時は、会社ではなく「高く売ってくれる人」を選んで欲しいのです。
もちろん、選んだつもりが……という事だってあるでしょう。そのために「こんな事があって」「こんな対処をすればいい」という事を知っておいて欲しいのです。
コラム⑥
買取業者を使うタイミングとは
自宅マンションの売買では、2種類の不動産会社が関わります。
ひとつは仲介業者、もうひとつは買取業者です。どちらも不動産業ですが、役割は全く違います。
仲介業者は、あなたの代わりになって良い購入者を探してくれます。
一方の買取業者は物件をそのまま買ってくれます。
物件を高く売りたいのであれば“エンド”――その物件を実際に使用する個人に売るのが一番です。
買取業者は、会社によって査定額が違いますが、どうしたってエンドユーザーよりは安くなります。
しかし、買取業者の場合、エンドユーザーと違うメリットもあります。
早く、もしくは確実な期日までに物件を現金化できるという点です。
買取業者からの見積もりは1週間もあればできます。売買契約も1週間あれば十分できます。そして現金化ですが、業者が仮にローンを利用している場合は、3週間ほど。ローンを利用しなければすぐにできます。
つまり1ヶ月もあれば、手元に現金が来るのです。
では、買取業者であってもできるだけ高く売るにはどうしたらいいのでしょうか?
ひとつは、複数の買取業者から見積もりを貰う事です。そうすれば、一番高く買ってくれるところが分かります。買取業者への販売を多く行っている仲介業者へ依頼すれば、簡単に多くの会社からの見積もりを手にする事ができます。
仲介業者を通さず、自分自身で見積もりを依頼すれば、仲介業者へ支払う手数料も節約できます。ただ、個人で行う場合、複数社へ依頼するには手間もかかる上、数多く貰うにも限界があるので、効率良く複数の見積もりが欲しい場合は仲介業者を通した方がいいでしょう。
もうひとつの方法は、セカンド・ステージで買取業者へ依頼する方法です。この方法は、現金が必要となる期日がはっきりしている場合に使えます。
買取業者へ販売すれば、1ヶ月で現金を手に入れる事ができるとご説明しました。更にもう1ヶ月余裕を持って、現金化したい期日の2ヶ月前をリミットに設定します。そしてそのリミットまでは、正当な販売法――レインズに掲載してエンドユーザーへの販売方法を試みるのです。
上手くすれば、エンドユーザーへ高額売却できる可能性が残ります。
そして売れなかったら、買取業者へ即売却します。これでリミットまでに確実に現金を手にする事ができます。
ファースト・ステージを行った後で、セカンド・ステージで確実に売る――とにかく期日までに現金が必要だという場合は、この販売方法をお勧めします。
4.自宅マンション売却で気になるお金のアレコレ
これまでは、主に不動産会社とのやり取りを中心にお話してきました。しかし不動産売却では、不動産会社のやり取り以外にもいろいろな事があります。
ここでは、お金について知っていた方がいい事をご紹介します。
①売ってから買うか、買ってから売るか
自宅マンションを住み替えようとした時、今まで住んでいたマンションは売却して新しいマンションを購入する事が一般的です。「売る」と「買う」、このふたつを同時もしくは前後して行うわけですが、最近はいろいろな売り方・買い方が出てきています。
例えば、まだ住宅ローンが残っていて、事情があって住み替える必要が出てきた場合です。
たいていの人は、今住んでいるところを売却して新しいところを購入するのがベストだと考える事でしょう。
しかし、それが絶対正解というわけではありません。ケースバイケースでいろいろな方法を採る事ができるのです。
理想的な方法は、売るのと同時に新しいところを購入する事でしょうが、現実的にはタイミングが難しくまず無理でしょう。
そうしたら先に買ってから売る、もしくは一時的でも貸すという方法を採る事で、売れる前に新しいマンションへ移る事もできるのです。
先に買う大きなメリットは、住み慣れたところで落ち着いて物件を探す事ができる点です。また引っ越しも新居への1回で済むので、その分負担も少なくて済みます。当然仮住まいの必要も無いので、家賃など余計なお金をかけずに済みます。
一方のデメリットですが、売却価格が確定していないため、いくらで売れるか分からないという点です。そのため住宅ローンなどのマネープランも立てにくくなります。
住宅ローンを二重で組む可能性もあり、金銭的な体力が無いと難しい面もあります。しかし物件探しや引っ越しなど住人の負担が少なく、落ち着いて行動できるという点で魅力的な方法でもあります。
すぐに売る、という強いこだわりが無ければ、一旦誰かに貸して使ってもらうという方法もあります。賃貸に出す時、賃借権を盾に売却を妨害されたら……という心配があるなら「定期借家」で貸し出す事をお勧めします。
「定期借家」というのは、「契約期間がはっきりと定められており、契約の更新が無い」賃貸物件の事です。期間は1年未満から設定が可能となっています。また、契約更新をする必要が無いので、売れるまでの一時的に貸すのに大変便利な制度です。
立地などの条件面で、短期間でも借り主が現れそうな物件であれば、検討してみてもいいと思います。ただし、住宅ローンを貸し出す融資会社によって賃貸や売却に関する条件が違いますので、事前に確認しておく事も必要です。
では、次に先に物件を売ってから新居を買う方法について考えてみましょう。
一番のメリットは、売却金額が決まっているので、新居購入の際の資金計画を立てやすいという点です。
また二重にローンを組む必要が無いので、将来の支出の不安も少なくて済みます。
一方のデメリットですが、新居を購入するまでの間、仮住まいをしなくてはならない点です。
住み慣れないところに、どれくらいの期間住めばいいかの分からないという精神的な不安に加え、仮住まいの賃料がかかるという金銭的な負担も大きくなります。
また、旧居から仮住まい、仮住まいから新居へと最低2回は引っ越しをしなくてはいけませんので、引っ越しの苦労も2倍になります。
買ってから売るか、売ってから買うか――どちらがいいかは各家庭の持つ事情や希望で変わってきます。
大切なのは、こういった選択肢を担当営業マンはちゃんと提示してくれるかどうかという点です。最初の段階で、こういった選択肢があり、どれをやればいいのかをちゃんと提案してくれる営業マンなら、その先も安心して任せる事ができるでしょう。
もし、選択肢をちゃんと出してくれない営業マンであったなら、どうしたらもっと高く売れるかといった提案も出してくれない可能性が高くなります。
提案がなされない、もしくは提案に納得できないのであれば“セカンドオピニオン”を受けましょう。複数の提案を聞く事によって、自分にとって最適なプランが何であるのかが分かってくるはずです。
ここでBさんのケースをご紹介します。
Bさんは65歳で、荒川区でひとり暮らしをしていました。築35年、2LDKのマンションから、娘宅近くの1LDKへ買い換える計画を立てました。ただし、手持ちの資金はあまりありません。
信頼できそうな不動産会社に相談したところ、「今の家を売って、資金を作るところから始める」という提案を受けました。
お金が無いなら、まず売りましょう、という事です。
しかしBさんは身体が弱く、できれば引っ越しは1回で終わらせたい、仮住まいはしたくないという希望もありました。
そこでBさんは他に方法が無いかと、別の会社でセカンドオピニオンを受けました。すると、そこの会社ではこう言われました。
「Bさんの状況なら、先に買えますよ!借り入れをしますので、融資の諸費用もかかりますが、3~4ヶ月分の仮住まい費用を払うよりも安く済みます」
結果、Bさんはセカンドオピニオンを受けた会社の提案で、買い換えを進める事にしました。
希望通り、仮住まいする事無く1回の引っ越しで住み替える事ができたのです。また空室になった状態で売却する事にならなかったので、内覧の立ち会いや日程調整などの“無駄”を省く事もでき、身体の弱いBさんに最適な住み替えができたのです。
もし、Bさんが最初に相談した会社の提案にのっていたらどうなっていたのでしょうか?
買い手を募りつつ仮住まい先を探して、1回目の引っ越し。そして仮住まい先から新居を探し、2回目の引っ越しと、住まい探しも引っ越しも二重の手間がかかります。
また、仮住まいという住み慣れないところで新居を探すという、ストレスも二重にかかってしまい、身体の弱いBさんにかなりの負担を強いる結果となっていたでしょう。
複数に相談をするという事は、つまり自分を守るという事でもあるのです。
自宅マンションの売却とは、生活の場を売る事です。自分たちの生活基盤を守る上でも、どういう方法を採るのがベストなのか、いろいろな選択肢を比較検討した上で決める必要があります。
「先に売って、後から買う」というのは必ずしも正解ではない、この事は忘れないでください。
②ダブルローンとは?
ダブルローンとは、その名の通り住宅ローンを二重に組む事です。
旧居の住宅ローンを精算する前に、新しくローンを組んで新居を購入するので、金銭的な体力が無いと難しい方法ですが、同時にメリットも多くあります。
ダブルローンの大きなメリットは、新居を先に購入できるという点です。先に購入する事で、仮住まいに住む手間を省く事ができます。
しかし、新居購入を後回しにした場合、しばらく仮住まいを借りなくてはならなくなるため、賃料が発生して同じように住居費の負担が増えます。
ダブルローンの場合、ローンで支払った金額は資産へ蓄積されます。一方、賃貸の場合は毎月ただ消えるだけです。
賃料とふたつ目のローンの支払いが同じぐらいだとした時、長い目で見てどちらがプラスになるでしょうか。当然、消える賃料より残るローンです。
個人的な見解としては――金銭的な体力があればですが――ダブルローンはお勧めです。
さてその「金銭的体力」以外にも、気になる点があります。住宅ローンを二重もしくはまとめる際に当然再度審査が入ります。新たなローンを組む時、基準に達しているかどうかも気にしておきたい点です。
基本的には毎月の返済金額の合計が「返済負担率の範囲内に収まる事」が条件となります。ただ、先に組んだローンを含まなくても融資可能なローンもあるそうなので、通るかどうか微妙な場合も、担当に相談してみましょう。最適なローンの提案をしてくれるはずです。また自分にはどういうローンの組み方が適しているか、ネットなどで簡単に調べる事もできます。
ただし2番目の住宅ローンは、最初に組んだローンに比べて金利が高くなる場合があります。金利が不安な場合は、ふたつめは金利が一定なフラット35でローンを組む方法も良いと思います。
ダブルローンを活用すれば、住宅ローンが残っていても先に購入する事が可能になり、売買をどうやって進めるかという選択肢も広がります。
もし、選択肢を出さないまま「ローンが残っているので、まず売ってしまいしょう」と、やたらと売りたがる営業は要注意です。「高く売る」より「今売る」が優先になっている証拠だからです。
自分はできるだけ「高く売りたい」という希望と熱意をしっかりと伝える事を忘れないようにしましょう。
③マンション売買ではどんな「諸経費」が必要になるのか
自宅マンションを「売って」「買う」場合、かなりの金額が動きます。
売却金と購入金以外にも、印紙税や登録免許税、譲渡取得税、固定資産税、不動産取得税などの税金関係、融資手数料や保証料、火災・地震保険料、団体信用生命保険料といった融資や保険に関する費用も必要になってきます。
と、ここまでは売買関係で動く諸費用ですので、担当営業に聞けば済む範囲です。
ここからは、売買関係以外でかかる費用についてお話しします。
まずは引っ越し費用。
特に長く住んでいたところからの引っ越しとなると、「ここに越してきた時いくらかかったっけ?」となる方もいらっしゃるでしょう。
実際にかかる費用は家族の人数、荷物の量、移動距離などで変わってきますので、ここでは大体の目安をご紹介します。
同じ都道府県内で引っ越すとすると、引っ越し料金は大体7万円から10万円ぐらいかかるのが相場です。また繁忙期である3月から4月は更に2~3万円ほど高くなります。
ここに電話やネットの移設費やゴミの処理代金などが入ると、少なくとも20万円ぐらいはかかると見た方がいいでしょう。
これに加えて新居の家電・家具などの代金もかかりますが、これに関しては、一旦仮住まいへ転居するか、そのまま新居へ移るかでもかなり変わってきます。
新居へ移るなら、それなりにこだわって選ぶため、値段もそれなりに張るものを選ぶ事になります。しかし仮住まいなら不要不急のものは用意しなくてもいいので、わざわざ買いそろえる事も無く、そんなに費用はかかりません。
仮住まいでも新居でも必要なのが、ご近所へのご挨拶の際に用意する手土産です。手土産代の相場はひとつ500円から1,000円ぐらいです。ご挨拶先は旧居・新居ともに自分の部屋から上下左右の位置に当たる部屋へ挨拶するのが一般的ですが、長く住んでいた土地を離れる時は、当然ご挨拶先も増えるでしょう。できれば1~2万ぐらいは予算として確保しておく事をお勧めします。
住み替えの引っ越しでかかる金額は、旧居から新居へ移る場合は引っ越し費用+手土産代+家電・インテリア代で少なくとも100万円ぐらいは必要になってきます。もちろん、家具・家電にこだわりがあればその予算はどんどん上がっていきます。
一旦仮住まいへ移る場合、今度は部屋を借りる時にかかる諸費用がプラスされます。借りる際の敷金・礼金、管理費、不動産会社への仲介手数料、火災保険料、鍵の交換料金などです。
これも借りる物件の家賃で変わってくるのですが、大体50万から80万円ぐらいはかかると見ておきましょう。
更に仮住まいの場合は、月々の家賃、荷物が置ききれない場合はトランクルームのレンタルなども必要となってきます。
加えて新しいマンションへ移る時の引っ越し料金もかかるので、一旦仮住まいをする場合、賃料も含めると200~300万円は予算を確保する必要があると考えましょう。
私が金銭的体力があるならダブルローンを組んで先に新居を購入した方が良いという理由は、これでお分かりになりますよね。仮住まいを挟むと引っ越しの諸費用が倍以上になるからです。
売買にかかる料金、引っ越しにかかる料金とここまでは何となく想像できる費用です。しかし自宅マンションを売る時、まだ必要になってくるものがあります。
それは、マンションをより高く売るための費用です。
購入希望者は実際にご自身のマンションを見て、購入するかどうか決めるわけです。その時、部屋の状態が汚かったら果たして買う気が起きるでしょうか?
何だかんだ言って、人は見た目で判断します。特に水回りなどは間違いなくチェックされます。見学者を迎え入れる時は、そこをしっかりきれいにする必要があります。
自分たちでピカピカにできれば、かかる費用は掃除道具や洗剤程度で済みますが、長年蓄積された汚れはそう簡単には落ちません。そういう時は、業者を頼んできれいにしてもらった方が間違いありません。これでマンションの売値が数十、数百万高くする事ができるなら、決して無駄なお金ではないと言えます。
業者や状態によってクリーニング料は変わってきますが、相場として
・シンク周辺……15,000円~
・レンジフード/換気扇……14,000円~
・風呂場……15,000円~
・トイレ……7,500円~
・洗面台……8,000円~
です。
また、フローリングの痛みも、売値を下げる原因になります。
張り替えの場合8畳で10万円ぐらいから、リペアの場合は場所や状態に寄りますが、傷んでいるところを補修した場合は2~5万円ぐらいから可能です。
このように、マンションを住み替える時はいろいろな諸経費がかかってきます。そう考えると、絶対に高く売った方が良いに決まってますよね。
より高く売るため、何をしたらいいかは、この後で改めてお話ししますので、絶対に目を通してください。
④実はいろいろある?不動産の価格
この章ではお金に関する事をいろいろご紹介しましたが、次に“不動産価格”についてお話ししたいと思います。
不動産価格と一口に言っても、時価や公示価格、固定資産税評価額などさまざまな種類があります。ここではマンション売却に関する4種類の価格の違いについてご説明します。
1.査定額
過去に成約した類似物件を元に算出した価格です。データを元にして計算するので、「事実に基づいた価格」となっています。そのため、本来ならどの会社が出しても同じような価格になります。(違いが出る理由は本文の査定についてお話しした部分をお読みください)
この査定、一般ユーザーに直接売る場合と、買取業者へ売る場合で2種類の査定が存在しています。
2.希望価格
これはあなたが考えた「このマンションをいくらで売りたいか」という価格です。
「買った時は6,000万円だったから、5,000万円台で売りたい」
「ローンの残債が3,000万円あるので、最低でも3,000万円で売りたい」
「早急にお金が必要なので、取りいそぎ2,500万円で売りたい」
という風に、理由も希望する金額もさまざま。主観的な金額と言えます。
3.販売価格
物件販売をスタートする時の価格です。査定額+αで設定する事が一般的です。
買い物に便利とか、評判のいい学校の通学区域である、花火大会を部屋から眺める事ができるなど、+αできるポイントがあればあるほど高く設定できます。
時「チャレンジ価格」として、査定額から大幅にアップして販売をスタートする事もあります。
4.成約価格
結果として売れた金額。税金などはこの金額を元に算出されます。
この4つの価格は大まかにふたつに分けられます。
過去のデータに基づいた査定額、実際に売れた成約価格、このふたつを「事実に基づいた価格」とすると、2の希望価格と3の販売価格は「感情が伴う主観的な価格」と言えます。2と3については、自分がこうだ!と思ったらその価格にしてもいいという事です。
ところで、査定額はデータに基づいた客観的な価格と言いました。しかし、中には「主観的な価格を査定額」として説明をする会社があり、業界では問題視されています。
例えばあなたが売ろうとしているマンションの査定額は、過去のデータから算出すると5,000万円ぐらいだとします。
これが主観的な価格になると「このエリアで50㎡台、2LDKを6,500万円で買いたい人がいるので、あなたのマンションもそれぐらいで取り引きできます」と何の根拠も無い数字を査定額として提示するのです。
他に「今現在、近隣のものが6,000万円で販売されているので、あなたのマンションの査定額は6,000万円です」と、今現在販売している物件の希望価格を元に査定額を提示したりします。
このようないい加減な査定額を出す理由は、何が何でも顧客として取り込みたいからです。本文でも説明していますが、査定通りに売れなくても不動産会社は痛くもかゆくもありません。
どちらにしろ、査定を高く出す会社には注意するに限ります。
もうひとつお話ししておきたいのが「査定」と「相場」の違いです。
査定とは、過去の取り引きデータ元に算出した金額であるというのはすでにお話ししました。
一方の「相場」ですが、ひと言で言うと「大手不動産会社の取り引き平均値」です。
査定が過去のデータが元になっているとすると、相場は「今」のデータが元になります。その「今」のデータを明らかにしているのは大手不動産会社なのです。
つまり、相場を作っているのは大手不動産会社自身に他なりません。
私が滑稽だなぁと思う事は、大手不動産会社へ「相場より高く売ってください」と依頼したり、大手の営業マンの口から「相場より高く売ります」という台詞が出る事です。
これはつまり、相場の人に相場以上を求めているって事ではないですか?
相場の人――つまり彼らの実力そのものが相場です。
相場以上という事は、彼らに実力以上の事を求めているという事です。
という事は、死に物狂いで実力以上の力を出してもらわないと相場以上は難しいわけです。結局のところ、大手だから高く売れる、安く売れるという事は無く、平均的には「査定額に近くなる」という事は言えるでしょう。
⑤先に買う?先に売る?
住んでいるマンションを売って、新しく住むマンションを買う――この住み替えにはいろいろな方法があるとお話ししました。
先に買うか、後に買うかはケースバイケースです。その人のライフスタイルや資産、住み替えに伴うプランでどの方法がベストなのか変わってきます。
ではどういう人が先に買っているか、どういう人が先に売っているか気になりませんか?特に自分はどうしようかと迷っている方は、気になるのではないのでしょうか?
そこでいろいろなケースを集めてみました。どんな人がどのように住み替えを勧めたのか、是非、今後の計画の参考になさってください。
◆先に買うケース例
1.共働きのAさんの場合
Aさん夫妻はともに正社員。フルタイムで働いていました。
どちらもそれなりの責任のある立場であったため、二人で休みを合わせて引っ越しや物件探しに時間を割くというのが大変難しい状態でした。
ローン残債がかなり残っていたので、ご夫婦は先に売却する事を希望されていました。
しかし、お二人とも多忙である事、正社員という事で金銭的な体力もあったという事で、私は先に購入する事を勧めました。
結果、Aさんご夫妻はまずは新居を探す事に専念しました。引っ越しして落ち着いてからマンションも無事売却でき、結果として限られた時間を有効に使う事ができました。
2.小さなお子さまがいたBさんの場合
お子さまが生まれて手狭になったため、部屋数の多いマンションへ買い換えを決意したBさん。
この先の教育資金を考えると、先に売った方が堅実なのでしょうが、引っ越しや仮住まいなどの手間を考えると……と、相談にお見えになりました。
引っ越しの繰り返しでかかる負担などを考えると、やはり先に買って落ち着いて住み替えるべきと結論が出ました。小さなお子さまを抱えて引っ越し作業を繰り返しすのが大変な事はもちろん、お子さまへのストレスを考えると、間違いなく先に買う方が正解でした。
心配だった資金も、Bさんがもともと住んでいたマンションが人気エリアにあった事で、早々かつ高値で売却できる可能性が高かったのとフラット35で住宅ローンを組む事によって目処が立ったので、先に新居を購入する事ができました。
3.戸建てからマンションへ住み替えたCさんの場合。
Cさんは広めの戸建てに家族で住んでいました。奥様に先立たれ、お子さまたちもすでに巣立った後でしたので、ひとりでは管理も大変だという事で、一人暮らしにちょうど良い1LDKのマンションへ住み替える事にしました。
手元にまとまった現金は無かったのですが、Cさんの戸建ての資産価値は購入予定のマンションの値段を上回っていたため、先に買っても大丈夫と判断しました。
高齢者の場合も小さなお子さま同様、引っ越しの繰り返しは大きな負担となります。できるだけ一回の引っ越しで済むようにする方が望ましいと言えます。
そしてCさんもお子さまたちの近くにちょうど良いマンションを見つけると、売却前に購入して、先に新居へ移ってから戸建てを売却しました。
4.希望のエリアに物件が少ない場合
住み替え希望のエリアに、購入可能物件が少ない場合は、先に買った方が良いと思います。何故なら、仮住まい期間が長くなる可能性が大変高くなるからです。
仮住まいが長いという事は、その分月々の家賃を長く払い続けるという事です。
先に物件を買ってしまえば、家賃分をローンに回す事ができるので無駄がなくなります。
仕事や学校の都合で、物件が少ない地域に住み替える場合、まず条件に合う物件を確保してから、落ち着いて売却を始める方が精神的な負担も少なくなります。
Dさんの住み替えもそのようなケースでした。
実家の都合で選んだエリアには、購入できる物件が大変少なかった上、そのエリアに引っ越さなければならない時期も決まっていました。
Dさんはこれはと思う物件を見つけたのですが、自宅マンションが売れるまで待っていると売り切れる可能性がありました。そこで先にその物件を購入し、引っ越し後に売却を行いました。
5.資金力のある方
ダブルローンを組む資金力がある方全てに言える事です、
仮住まいを探す手間や引っ越し回数をいたずらに増やすのであれば、先に物件を購入して一回の引っ越しで住むようにした方が間違いないと言えます。
理由は本文で述べていますが、トータルな負担を考えると、先に購入してしまった方が楽なのです。
自宅マンションを「売って」「買う」という事を同時に済すより、まずは「買う」事に専念して、新居に落ち着いてから「売る」事に専念する、このメリットはとても大きなものだと言えます。
◆先に売るケース
1.転勤があるEさんの場合
Eさんは転勤を機にマンションの売却を決意しました。
配属先の都合で、この先も転勤する可能性が高かったため、Eさん当面は購入せず落ち着くまでは賃貸で暮らす事にしました。新居購入は、仕事が落ち着くまで見送る事にしたのです。
Eさんのように、転勤や引っ越しの可能性が高い場合、無理に購入するより、しばらく賃貸で様子を見る方が適していると言えます。
2.金額が決まらないと納得できないFさんの場合
慎重な性格のFさんは、いくらで売れるか決まらないと、先に進めたくないという希望でした。
特に問題なく売れる物件であったので、Fさんの希望通り先に売却を勧めました。そして売却金額を元に購入物件の予算を決めて、仮住まいから納得の行く物件探しを行いました。
たとえこちらが「先に買う」事を勧めていても、最終的な決断はお客様である売主自身です。売主の希望が「先に売る」事であれば、それに沿って売却プランを進めるだけです。
3.高く売れる時期なので、売却できたら動いてみようと考えたGさんの場合
自宅マンションの価値が上がっていると聞いたGさんは、「もしそうなら売って見てもいいかも」と考えました。
希望通りの価格で売却できなければ売らないという事でしたので、当然、先に売る事になります。
ある意味、チャレンジ的な意味で売却を行うので、当然新居購入より売却を先に勧める事になります。
4.売れるかどうか心配なHさんの場合
Hさんは、築年数の経った古いマンションだったので、売れるかどうか自信がありませんでした。そこで「売れたら売る」という気持ちで売却を決意。そのため先に新居を探す事無く、売却のみを先に進めました。
Gさん同様、「売れたら売る」という姿勢です。まず売却のみを進め仮住まい先や新居探しは「売れたら」始めるという方法を採る方はそこそこいらっしゃいます。
5.不動産屋さんの勧めで
何度も話題に出していますが「とにかく売りたがる」不動産屋業者は少なくありません。先に売って、後から買うというケースのほとんどは、この「不動産屋さんの提案」に従った結果である事で間違いないでしょう。
1~4のように、先に売るべき理由が無ければ本当に先に売って良いのかどうか、しっかり検討する必要があります。
例えば手持ちの現金が無くても、Cさんのように資産価値が購入予定物件より上回る場合、先に買う事も十分可能なのです。
本文でもお話ししましたが、担当営業マンから複数の提案を受ける事。提案を受けた場合のメリットデメリットの説明もしっかり聞く事。それで先に売るか、先に買うかを決めるべきです。
いろいろな方がいろいろな方法で住み替えを行っています。「これが絶対に正解」というものでもありません。融資先によって条件も変わりますので、確認を忘れないでください。
ここでのケースも参考にしつつ、自分に一番メリットのあるのはどの方法か検討しましょう。
コラム⑦
売値は高ければ高い方がいいのか
自宅マンションの買い換えには、いろいろな諸経費もかかる事が分かりました。だからこそ少しでも高く売った方が良いともお話をしました。
しかし、本当に高く売れば売るほどいいのか、という疑問が生まれるかもしれません。高く売るためにコストが余計にかかれば、逆に損をする可能性もあるのではないか、と。
高く売るためには、査定分に付加価値を付ける必要があります。自宅マンションの状態が悪いと、当然付加価値も下がります。例えば首都圏エリアであれば200万円から300万円も金額が変わるのです。
前項で触れたハウスクリーニングですが、自宅を丸々クリーニングした場合でも4LDKで14万円ぐらい。これにフローリングの張り替えを入れても100万円はいきません。
14万かければ、200万から300万円も売却金額が上がるとしたら、間違いなく大幅なプラスです。
もうひとつ気になる点は、税金や手数料など、成約金額にかかってくる経費です。金額が上がると、諸経費はどれくらい変わるのでしょうか。
具体的な基準を挙げてみます。
・不動産仲介手数料(上限額)
取引額200万円以下……取引額の5%以内
取引額200万円超え400万円以下……取引額の4%以内
取引額400万円を超える金額……取引額の3%以内
・印紙税
100万超え500万円以下……1,000円
500万円超え1,000万円以下……5,000円
1,000万円超え5,000万円以下……10,000円
5,000万円超え1億円以下……30,000円
1億円超え5億円以下……60,000円
※2020年3月31日までに契約書が作成された分まで。軽減措置が終了する2020年4月1日より税額は倍になります。
・譲渡取得税(マンションを売却した時にかかる税金)
購入してから5年以内のマンションの場合……譲渡所得×39%
購入してから5年以上経過したマンションの場合……譲渡所得×20%
※譲渡所得とは譲渡対価(成約価格)から取得費(マンションを購入する時にかかった金額から、減価償却分を引いた額)と売却にかかった諸費用を引いたもの
固定資産税と不動産取得税は、固定資産評価額を元に算出されるので、成約価格の上下には左右されません。
価格に左右される手数料や印紙税についても、成約価格の上下はほとんど関係ないレベルです。せいぜい5,000万円で成約するか5,001万円で成約するかで印紙税が1万円になるか3万円になるかといった程度です。それだって、1万円の差で出費が2万増えるのであれば、誰だって1万円分は値引きしますよね。
ややこしいのが譲渡取得税です。購入してからの年数で税金がどれくらいかかるのかが変わってきます。
ただ、売却価格が取得費・諸経費の合計を上回らないと発生しない税金ですし、仮に上回ったとしても3,000万円の控除を受ける事も可能なため、売却利益が3,000万円以上発生しない限り、気にしなくてもいいとも言えます。
つまり高く売れれば売れるほど、間違いなく得であるという事です。迷わず高く売るための努力をどんどんしていきましょう!
コラム⑧
マンション売買で節税はできるのか?
前項で税金の話が出ましたので、ここで改めて税金のお話をします。
マンションを「売って」「買う」という一連の流れではいろいろな税金がかかってきます。
印紙税のように、金額が決まり切っているものは仕方が無いとして、何か節税できるものがあるか、気になりますよね。
まずは先に触れた譲渡取得税について。
これは本当にややこしいのですが、基本的な考え方としてはマンションを売って利益が出たら、その利益分に税金をかけるというものです。
で、その利益の計算の仕方がややこしいのです。
マンションを売って得た利益を譲渡所得と呼びます。この譲渡所得の出し方ですが、売却した金額から“取得費”と譲渡費用を引いて出します。
譲渡費用とはマンション売却でかかった費用の事です。売却の際に仲介業者へ支払う手数料や契約書の印紙税などがこれに当たります。
難しいのが“取得費”です。
取得費には
・マンションの購入代金
・リフォームや改築をした場合はその代金
・購入時に支払った仲介手数料
・購入契約書の印紙代
・登録免許税や司法書士報酬など、登記でかかった諸費用
・不動産取得税
などが含まれます。
そして、上記の合計金額から“減価償却分”を引いたものが“取得費”です。
減価償却分と書くと難しく感じますが、マンションの価値は購入時がピークで、年月が経てば経つほど下がっていきます。その下がった分を“減価償却分”と呼ぶのです。
つまり、購入年数が経てば経つほど取得費は下がっていくという事です。
譲渡取得税がややこしいのは、この取得費の計算だけではありません。購入してからの年数で税率も変わってきます。
購入後5年未満の場合、税率が39%。5年以上の場合は20%となり、5年経つか経たないかで、税率に倍近い差が出てしまいます。
更に10年以上居住していて、必要な条件を満たしていれば「10年超所有軽減税率」の特例を受けられるので、更に税率は下がって14%になります。
住宅ローン減税が受けられなくなってしまうのですが、自宅マンションを売った時は3,000万円の特別控除を受ける事も可能です。この控除は居住年数の長さに関わらず受ける事ができます。
譲渡取得税に関しては、売却して得た利益が3,000万円以上にならない限り、気にする必要が無い税金ですが、節税ポイントをあえてあげれば「建築費」です。
購入希望の見学者が来るからと、フローリングを張り替えたり、壁の修繕など行った場合、その費用は「建築費」として取得費に計上する事ができます。修繕や補修は、マンションの売値を上げるだけでなく、節税も可能というわけです。
譲渡取得税は、売値がプラスとなった場合に課税されるものですが、全ての売買がプラスになるとは限りません。ケースによっては売却金額がローン残高よりも安くなってしまう事もあります。その場合の救済措置もちゃんとあります。マイナス分を相殺するため最大3年間、所得税の控除を受ける事ができるのです。
この控除には2種類あります。
ひとつは売却したマンションに5年以上住んでいて、住宅ローンの返済が10年以上残っているケースに適用される「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」です。
もうひとつは住宅ローンを使って新居を購入した場合に適用される「居住用財産の買い換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」です。
これを受けるための条件は、5年以上住んでいたマンションを売却し、新しい住居を返済期間10年以上のローン使って購入する事。そして新しい住居へは、売却した年の翌年の12月31日までに入居していなくてはいけません。また、旧居売却は新居入居から1年以内に行われていないと適用されません。
言い換えると先に買った場合は、1年以内に旧居を売る事、先に売った場合は翌年の年末までに新居を購入して入所しないといけないという事です。更に新居の広さが50㎡以上ある必要もあります。
この条件を満たせば、所得税の控除を受ける事ができるわけです。
ここで住宅ローンの話が出たので、関連する事をもう少しお話ししましょう。
ダブルローンでふたつの住宅ローンを組んだ場合、住宅ローン減税はふたつ同時に受ける事ができません。
要するに、先に組んだ住宅ローンで減税を受けている場合、そちらを完済してないと新しいローンでは住宅ローン減税を受ける事ができません。注意してください。
住宅ローン減税の他、購入時に節税できるものとしては「贈与税」もあります。
2021年までという期間限定なのですが、父母や祖父母から生前贈与を受ける事が可能であれば、それを住居購入に充てると控除額が大きくなります。2021年3月末までは最大1,000万円、2021年12月末までは最大800万円(消費税が10%に成った場合はそれぞれ1500万円/1200万円)の控除が受けられます。
相続税より控除額が高くなる可能性があるので、検討してみる余地はあると思います。
ここまでお話しした売却/購入に関係してくる税金のポイントをまとめると次にようになります。
1.購入してから5年以上か以下で、控除や税率が変わってくる。(5年以上の方が税制面で優遇されている)
2.譲渡取得税は利益が3000万円以上にならないと基本発生しない。
3.売却額がローン残高を下回った場合は、所得税の控除を受ける事ができる。
4.2021年まで、生前贈与分を住宅購入費に充てると控除額が大きくなる。
ところで不動産取得税と固定資産税は、マンションの固定資産税評価額によって決まります。この固定資産税評価額ですが、2017年完成・引き渡しのマンションと2018年完成・引き渡しのマンションでは評価額が変わっています。
「タワマン節税」という言葉を聞いた事はありますか?
これは、マンションの実売価格と評価額の差から、相続税が節約できる仕組みです。
簡単に言うと、マンションの固定資産税評価額は何階であろうと一律でした。しかしマンションの価格は高層階の方が高くなります。
例えば高層階の価格が8,000万円で低層階が6,000万円だとします。差が2,000万円もあるにも関わらず、固定資産税評価額は同じです。つまり、払う税金は8,000万の部屋でもでも6,000万の部屋でも同額なのです。
どう考えても不公平です。マンションの固定資産税評価額はおかしな話だと、話を聞けば誰しも思うはずです。そしてタワーマンションブームに伴って、固定資産税評価額の不公平感に対する声が年々大きくなってきました。そこで平成29年度の税制改革でやっとマンションにおける固定資産税評価額の算出方法が変わりました。
新しい算出方法はマンションの中央階を基準とすると、上へ行くほど高くなり、下に行くほど安くなるようになりました。
例えば50階建てのマンションで中央階(25階)の固定資産税が20万円だったとすると、10階は19.3万円、1階は18.8万円と下へ行けば行くほど安くなります。
逆に40階では20.7万円、50階では21.2万円と上へ行けば行くほど高くなります。
これで不公平感を多少改善したというわけです。
新しい方法は2017年4月以降に売買契約が結ばれ、2018年1月1日以降に引き渡しとなるマンションから適用されます。これは新築マンションに対する基準なので、2017年以前に完成しているマンションを購入した場合は、以前と同じ一律の固定資産税評価額となります。
つまり新しく買うマンションが新築か中古かで、固定資産税評価額が変わってくるのです。もし、新居を購入する時は、その点は注意した方が良いでしょう。
税金に関しては、本当に複雑でややこしいので、不動産会社の担当や税理士と相談しながら売買契約を進めていく事をお勧めします。
5.積極的なプロモーションで売値アップ!
ここまでお話ししてきた事は、どちらかと言うと「安く売らせない」ための工夫でした。そしてここでは「更に高く売る」ための工夫についてお話しします。
高く売るとはすなわち、物件の付加価値をプラスする事、プラスした付加価値を購入希望者に伝える事です。同時に付加価値の付け方、伝え方は私が一番伝えたい事でもあります。
①高く売るためには担当任せにしない
マンションをより高く売るために必要な事は「担当任せ」にしない事です。
何故なら担当営業マンは「お客様目線」で動かないからです。
不動産会社の利益と、売主の利益が一致しない事はすでに何度もお話ししていますね。
たいていの営業は「高く売る」事を優先していません。ほとんどの場合「とにかく売る」事を優先しています。
大切な資産であるマンションを「高く売る」ためには、どうしたらいいでしょう。
最初に話したように、担当営業マンに希望をしっかりアピールする事は、もちろんまずやって欲しい事です。
しかし、本当に高く売りたいのであれば、それだけでは足りません。自分から積極的に動く必要があるのです。
マンションの査定額とは、過去の取り引きデータを元に算出される額です。つまりこの価格で、このマンションは売れるだろうというラインです。
この査定額に+αする事ができれば、査定額より高く売る事ができるわけです。
ではこの+αとは何か?それはすなわち「付加価値」です。
あなたのマンションにどれぐらい付加価値を付ける事ができるかで、マンションの価格が変わってきます。
例えば、同じような広さ・間取りで、駅からの距離が同じとします。
スーパーやホームセンターが近くて買い物便利なマンションと、近くにはコンビニぐらいしか無いマンションだったら、どちらを買いたいですか?
同じ棟で、同じ間取りのマンションがそれぞれ売り出されていたとします。部屋から花火大会の花火が良く見える部屋と、花火の音しか聞こえない部屋だったらどちらを選びますか?
これは、住んでいる人だからこそ知っている事であり、だからこそ付けられる付加価値です。
駅からどれくらい離れているかどうか、学校や病院が近いかどうかは地図を見れば分かる一般的な情報です。
では、その駅の使い勝手はどうか、学校、病院の評判はどうかというのは、住んでいないと分からない情報です。
自宅マンションの買い換えを検討しているあなたは、売り手と同時に買い手でもあります。あなたは新居をどのように探していますか?当然、不動産会社が提供する間取り図や情報だけで決めませんよね。
住み心地や周囲の環境、部屋の状態など、さまざまな要素を含めて検討しているはずです。
あなたのマンションを買おうと思っている人も同じ気持ちなのです。
そしてあなたは、自分のマンションがどんな部屋か、そのアピールポイントを一番良く知っている人間です。
買い手の気持ちが分かり、アピールポイントを熟知しているという事は、最強の営業力を持っているという事でもあります。
何かを買おうと思っている時、実際に使っている人の使用感が一番決め手になります。
これは、マンションの売買でも同じなのです。買いたい気持ちを起こさせるのは、実際に住んでいる住民からのアピールなのです。
例えば、幸せそうな暮らしが見えてくる部屋と、殺風景で無機質な部屋だったら、どちらが魅力的に感じますか?もちろん、幸せそうな暮らしが見えてくる部屋です。
あなたの役割は、幸せそうな暮らしが見えてくる部屋をアピールして、担当営業マンに売ってもらう事です。
あなたが上手にアピールをしないと、担当営業マンは殺風景で無機質な状態で売り出しかねません。それはつまり付加価値がほとんど無い状態です。これでは高く売る事はできません。
では、その付加価値をどうやって付けるのか、どうやってアピールするのか、その方法について、これから詳しくご紹介しましょう。
これをやるとやらないとでは結果が全然違います。そして簡単にできる事ばかりです。できない事はありませんので、読んだら是非実践してみてください。
②すぐ住みたくなる!見学者をそんな気持ちにさせるアピールの仕方
マンションの購入は、不動産屋さんのチラシだけでは決めません。実際にその物件へ足を運んで、その目で見て確かめてから決めます。これを「内覧」と呼びます。
この内覧で希望者は購入するかどうかを決めると言っても過言ではありません。購入希望者に「買いたい!」「住みたい!」と思わせるには、それなりのアピールと工夫が必要です。
では、どんなアピールが必要となってくるのでしょうか。
見学者を迎え入れる時、「モデルルーム」をコンセプトに部屋を整えると好結果を出す事ができます。できるだけきれいに、生活感を見せないように部屋を演出するのです。
それでは具体的にどのようにすれば良いかを挙げていきます。
(1)清潔感を感じられる室内になっているか
内覧の時は当然掃除をして、見学者を迎え入れるはずですが、それだけでは足りません。
知らず知らずのうちにたまっていた長年の汚れが、見学者に不快感を与える可能性があるからです。
見学者に不快感を与えないために注意して欲しい点は、まず水回りです。
・洗面台には水垢などの汚れがたまっていないか。
・排水溝に毛髪などのゴミはたまっていないか。
・風呂場にはカビや赤カビ、ぬめり、カルキなどの汚れがたまっていないか。
・鏡にはウロコ汚れや曇りが無いか
・トイレには悪臭が漂っていないか。
などに気を付けましょう。
また台所にも注意が必要です
・シンク周りに汚れやゴミが残っていないか。
・換気扇やレンジフード、コンロなどに油汚れなどが残っていないか。
・床は清潔でベタつきなどの汚れが無いか。
・冷蔵庫にはメモが貼られていないか。
など「使っている感」をとにかく取り除くようにします。
また部屋全体を通して
・床や壁に傷や汚れなどが無いか。
・部屋に臭いは無いか。
などに注意する必要があります。
内覧時の部屋の状態で、金額が数百万円も変わる可能性があります。ここは絶対に手を抜いてはいけません。ある程度お金をかけてでも、きれいにしたいものです。
業者を使って汚れをきれいにする場合、家全体をクリーニングしても10万円前後でできます。不動産価格と比べれば高い金額でもないですし、気になるところのみ依頼する事もできます。数万円で売却金額が数百万円変わるのであれば、思い切って頼んでみてはいかがでしょうか。
クリーニングより値が張る可能性が高いのがフローリングの張り替えなど床や壁の補修です、しかしこの費用はリフォーム代(建築費)として、マンションを売った時に支払う税金(譲渡取得税)を計算する時に経費として計上もできます。あまりにも状態が悪いと感じる場合、思い切って費用をかけた方が好結果を出る事に間違いはありません。
(2)「物」はできるだけ片付ける
得体の知れない物がありそうなくらい、物であふれた部屋はNGです。物があふれている状態を見学者に見せると、絶対に高く売る事はできません。
物が多すぎると、不潔な印象を与えるのはもちろん、他にもいろいろと悪い印象を与えます。
「この家は収納が少ないのか」「思ったより狭い」などと思われたり、自分たちも将来こんなにゴチャゴチャした家になってしまうかもしれないと、げんなりされてしまうかもしれません。
収納内もチェックされるので、とりあえず押し入れに突っ込んで……というのも止めましょう。押し入れなどの収納部分もできるだけ物を少なくして、たくさん入りそうな印象を持たせるようにしなくてはいけません。
思い切って断捨離して物を減らしてもいいですし、どうせ引っ越しをするのですから、当面使わない物など、先に荷造りできる物は荷造りしてしまって、一旦トランクルームへ移してしまう方法もあります。そうすれば引っ越しの手間も少なくなって一石二鳥です。
コツは「丁寧に利用してきた」「大切に生活してきた」という気持ちが伝わるよう、おもてなしの精神で整理整頓する事です。
とにかく家の中にできるだけ物を置かないようにする事で、心証もグッと良くなります。
(3)とにかく室内は明るく
「明るく広く」見せる事で、部屋の印象がグッと上がります。
内覧の時は全ての照明のスイッチを入れてください。
カーテンはできるだけ全開にします。窓の外の雰囲気にも寄りますが、基本は全開です。開放的な雰囲気を持たせる事で家の印象を良くするためです。
そしてタッセルやカーテンクリップを使って、カーテンをまとめます。とにかくできる限り広げるようにしましょう。ちょっとオシャレなタッセルを使って、見学者の印象を上げるのもお勧めです。夢や希望、ワクワクなどのキーワードを思い浮かべながら家の中を整えてみても良いと思います。
とにかく見学者に購入意欲を持ってもらうためには、「買いたい」と思わせる演出を心がけるのです。あなたの感覚以上に厳しく演出しなければいけません。
自宅マンションは普段は生活の場です。しかし内覧の時は、できるだけモデルルームに近づけて、購入希望者がそこで、この先どんな生活を送りたいのかイメージしやすくする必要があります。
どこをどうしていいか分からない時は、担当営業マンに意見を聞くと良いでしょう。客観的なアドバイスが貰えるので、購入者目線でどこを直したらいいのかが分かりやすくなります。
人は無意識のうちに視覚からの情報を重視します。それを逆手に取る事で、買いたくなる家を演出する事ができるのです。
内覧があるその日だけでいいのです。その日だけでもモデルルームに仕立て上げるのです。終わったらまた、元のようにゴチャゴチャした家に戻っても誰も文句は言いません。とにかくその日、その時をいかに演出できるかです。
内覧を成功させるには、一にも二にもあなた次第です。実際に買い手が見学に来た時あなたに注意して欲しい点は次の4つです。
(1)イメージの悪い服装や態度
ここに住むと「自分もこうなってしまう!?」と買い手に思われていまいます。理想は「自分もこうなりたい!」と思わせる事です。
きちんとした身なりや態度を心がけてください。
(2)金額の話を見学者としない事
売買金額は不動産同士が交渉する事です。
もし買い手から金額に関する話が出たら「申し訳ないのですが、その話だけは不動産屋を通じて行う契約になっているので、お答えできません」と丁寧に断りましょう。
(3)話しすぎない事
売り込みをしすぎると、「何か裏があるのか」と買い手に疑いを持たれてしまいます。
返答は簡潔に。ひと言程度で話をするように心がけましょう。
(4)家族勢揃いを避ける
当日は買い手の家族、不動産屋など多くの人が集まります。ご自身の家族が多い場合、全員揃っていると室内がかなり手狭に感じて、悪印象となります。
一室に勢揃いする状況は避け、手狭になりそうなら自分以外の家族に外出してもらうなど、室内にいる人数を調整した方がいいでしょう。
内覧時は担当営業マンが先導して案内します。買い手はその後に続きます。売り手であるご自身はその後に付いていくようにしましょう。
営業マンの中には「売主さんは一切話さないでください」という人もいます。これは高く売れないパターンなので注意しましょう。
「どこで、何を言うべきか」というのを営業マンとあらかじめ打ち合わせするのがベストなやり方です。
私は売主も巻き込んで案内するのが好きなので、「この部屋はどんなところが良かったのですか?」と売主さんにあえて話をふるようにしています。
もちろん、突然質問するのではなく、事前にどこで何を話し、何を質問するか打ち合わせをしています。
案内時にどうするか、どう買い手にプレゼンしていくか、事前に担当営業と打ち合わせするのが成功の秘訣なのです。
しかしちゃんと打ち合わせしているはずなのに、実際案内が始まると、担当営業が伝えたい家の良さを伝え忘れる時があります。
そんな時は「こんなところが便利でしたよ」と、自ら説明を加えちゃいましょう。
話しすぎ、アピールしすぎは逆に不信感を持たれてしまうので、バランスが大切です。
もし、案内をしている中で買い手との距離が近くなって来たと感じたら、それは自分の物件に興味があるサインです。
そうなったら、担当営業を介さないで、いろいろな話をどんどんして大丈夫です。距離があるうちに、どんどん話をすると相手に引かれてしまいますが、相手が興味を持ち始めたら違います。押し時です。どんどん物件のアピールをしていきましょう。
会話を弾ませるには、話のタネも必要です
案内の予定が入ったら、どんなお客様であるかという情報が担当営業に入ってきます。その話を聞きながら、どうやって案内していくか、その方法を打ち合わせしても良いと思います。
後は当日内覧に来てくれた購入希望者が、買いたくなるような「素敵な家」を演出するだけ。いいプレゼンができれば、相場以上の高い値段で売る事ができるはずです。
ところでこのように、内覧ではあなたの役割が大変重要になるわけですが、その大役ができるかどうか不安になる方もいらっしゃると思います。内気な方や緊張しやすい方、見知らぬ人と会話する事に抵抗がある方はなおさらでしょう。
そういう方は、担当の営業マンに任せれば大丈夫です。
まず、事前にしっかり打ち合わせをして、当日の動きをしっかり決めます。
例えばリビングの立ち位置、部屋に入る順番など、段取りを全て決めておきます。
当日は、基本的に話をしなくても大丈夫。営業からされた質問に答えるぐらいに留めます。
もし、緊張しすぎて上手く答えられない……そういう心配があればちゃんとその点も担当と話をしておきましょう。
あなたにとって初めての内覧でも、担当は何度も立ち会って慣れた現場です。緊張している方や、話し下手な方への対応はちゃんと心得ています。言葉に詰まってもちゃんとフォローを入れてくれるので、安心しましょう。
対人関係に自信の無い方が心がけて欲しいのは雰囲気作り。
「この家に住むと、こんな感じの人になれるかも」「こんな幸せな感じになれるかも」と思ってもらえる雰囲気を心がけましょう。
それには丁寧な服装、温かい笑顔、前向きな発言など、プラスのオーラを出す事です。
この雰囲気が出れば、後は担当が後押ししてくれます。そうすれば人と接するのが苦手でもしっかりしたプレゼンができ、マンションをより高値で売る事が可能になるのです。
③担当を上手に使って印象度アップ
ケースによっては、自宅マンションを売る前に新居へ移る事もあるでしょう。その場合は空室で販売する事になります。そして空室で販売する場合は、あなたがいない分、担当営業マンが大変重要になってきます。
ところが残念な事に、空室になった場合で行われる内覧は、半数以上が担当営業の立ち会いなしで行われています。
空室案内の6割ほどが、「立ち会いなし」になっています。現地近くの不動産屋さんに鍵を預け、「そこの鍵を取りに行って開けてみてください」としたり、現地にキーボックスを設置して「勝手に見てください」という状態なのです。
「勝手に見てください」というのは、担当営業マンにとって大変楽な状態です。「楽」というのはすなわち、「売る」ための努力も「楽」しているわけです。
少しでも高く売りたいのであれば、ここは担当営業に頑張って欲しいところです。
もし空室状態で販売する事になった場合、「内覧時は必ず立ち会ってください」と担当に強く依頼しましょう。あなたがいない分も頑張って、物件の良さなど付加価値を希望者にアピールしてもらうのです。
それには担当があなたのマンションのアピールポイントを理解する必要があります。そこで、事前に担当としっかり話し合いをして「アピールポイントの共有」を行いましょう。
アピールポイントの共有を行う場合は、必ず会って話し合う事。忙しい、面倒くさいからと言って電話やメール、SNSを使うのは避けてください。「顔をつきあわせて意見を出し合う」事に意味があるからです。
実はこれ、ブレインストーミング(ブレスト)と呼ばれる手法で、アイデアを出し合う事で、そこから更に新しいアイデアを生み出す事ができるというマーケティングの手法です。この手法で物件のアピールポイントを出し合えば、新しいアピールポイントを生み出す事もでき、より物件魅力を高められます。
更にこれは、内覧の時に購入希望者への説明に活かせるだけでなく、販売ツールの作成にも役立てる事もできるのです。
このブレストを成功させるコツは
・相手の言っている事は批判しない
・質より量
の2点です。
とにかくたくさんのアピールポイントを出し合って、そこから新しいアピールポイントを見つけるようにする事が成功の秘訣です。
話し合いの時は、営業マンが思いつくだけのアピールポイントを事前にまとめてきてもらいましょう。アピールポイントをどれぐらいまとめてこられるかで、その営業マンの力量も分かります。
普通は40項目、最低でも30、できれば50項目ぐらい挙げる事ができれば、安心できる営業マンであると言っていいでしょう。もし30項目以下だったら、営業マンを叱咤激励してどんどんアイデアを出させるようにしましょう。
高く売るためには、購入希望者に「買いたい」と強く思わせる必要があります。担当営業マンはそう思わせるために付加価値のプレゼンや、説明を行わなければなりません。それには物件を深く理解し、たくさんのアピールポイントを知っている必要があります。
アピールポイントを掘り下げるブレストで、担当営業マンはあなた以上にあなたのマンションの良さを知る事ができます。あなたのマンションに特化した営業マンに変身できるのです。
そうなれば、空室時の内覧も安心して任せる事ができるようになります。
担当の出番は空室時の内覧だけはありません。居住中の内覧でも担当営業マンのアドバイスが重要になってきます。
売主にとって、今住んでいる家の中は日常的に心地良い空間です。しかし、見学者にとっては、必ずしも心地良い状況であるとは限りません。
営業マンはプロです。日々数多くの売却物件を見ていると、自然に良い点悪い点が分かってきます。その客観的な視点で悪い点を改善させ、より売れる物件に仕上げる事ができるのです。
しかし、中にはお客様に「嫌われたくない」という妙な遠慮が働いて、アドバイスできない営業もいます。
物件の悪い点の指摘は、売主の生活や日常を否定する事でもあります。そのため、室内状況の指摘に二の足を踏む営業がいるのです。
以前、マンションが半年経っても売れないという事で、相談に来られた方がいました。そこで、その方のマンションを訪問したら、室内状況は酷いものでした。
まずは水回り。お客様は普通だと思っていても、他物件と比較して明らかに汚い状態でした。冷蔵庫にはいろいろなものがベタベタと貼ってあり、どの部屋も物であふれかえっていました。
雑然として汚い、そんな部屋を見て「買いたい」という気持ちになるでしょうか?
半年間売れなかった理由はここにあったのです。
私は改善点を指摘しましたが、その方は「前の不動産屋からは何も言われなかった」とおっしゃっていました。恐らく営業マンが「嫌われたくない」と遠慮したからでしょうが、結果としてお客様自身の不利益となってしまったのです。
もし、そのような遠慮がちな営業マンだとしたら、こちらから積極的にアドバイスを貰うようにしましょう。
「室内状況をどうしたら良いですか?」と聞けば、悪い点をいろいろと教えてくれるはずです。
ペット可の物件を売る時にも、担当の意見がすごく参考になります。
築20年以内のマンションでは、ペットを飼えるところが多くなっています。この本をご覧になっている方にも、何らかのペットを飼っている方がいるかと思います。
ペットを飼っていたマンションを売却する時、一番の問題点は“臭い”です。
どんなに可愛いペットでも、臭いまでは可愛くはありません。しかし飼い主はペットの臭いに鼻が慣れてしまっているので、それがどれくらい他人に不快感を与えるのか分からなくなっています。
そこで担当に必ず臭いレベルを確認しましょう。先ほど言ったように担当の“遠慮”が出る場合もあるので、自分から聞くようにしたり、営業が提案しやすいような状況を作ってあげる事も大切です。
もし、マーキング癖のあるペットだった場合、売却に当たっては大きなマイナス要因になる可能性が高くなります。臭いがきつく、消臭剤などでは消せないレベルになってしまうと、重要事項説明書に記載して買い手に説明する必要も出てきます。
フローリングの張り替えした方がいいか、もっと酷い場合はリフォームした方が良いのか、またその費用は販売価格からあらかじめ引いておく方がいいのかどうかなど、担当と良く話し合った上で決めましょう。特に築20年以内の物件は、本来なら室内もそのままで販売できるため、ペットが原因の追加リフォームは買い手に納得してもらうのも難しくなります。
かといって、ペットによって「荒れた」状態で販売したらどうなるか――どう考えても売るのが難しい物件であるのは明らかです。
また、壁紙などに引っ掻き傷がある場合も、臭い同様飼い主は感覚が麻痺している事があります。飼い主にとっては取るに足らない傷でも、買い手にとっては「買いたい」という気持ちが冷めるきっかけになり得ます。一部の補修で済むか、全面的に張り替えた方が良いのかも、担当から意見を聞く方が良いでしょう。
先ほども言いましたが、飼い主は“慣れ”で感覚が麻痺しています。
「これでは売れない」「こうした方が良い」など、少しでも買い手に印象良くするためにどうしたら良いのか、担当の客観的な意見がとても重要になります。販売する前に担当と「ペット対策」をしっかり練る事で、安く買いたたかれるのを防ぐ事ができます。
内覧に向けてのペット対策としては、普段から換気を心がけたり、消臭剤を置くなどして臭いを少しでも少なくするようにしましょう。珪藻土や漆喰、炭など臭いを吸収する素材は、使い方次第でオシャレなインテリアにもなり、消臭と供に印象をUPする事もできるので一石二鳥です。
当日は担当と相談しながら、玄関に軽い芳香剤を置くと良いでしょう。とにかく玄関で良い匂いをさせる事がポイントです。最初から嫌な臭いを感じると、買い手はあなたのマンションを購入希望リストから外してしまいます。
またペット用トイレも印象が悪くなるので、内覧の間だけはトイレも片付けた方が良いでしょう。
また、ケージで大人しくできないペットであれば、散歩など外に連れ出す方がいいでしょう。大人しくできても爬虫類や昆虫類など、人によって好き嫌いがはっきり分かれるペットの場合、一時的にどこかに預かってもらうなど見学者の目に触れないようにする心遣いも大切です。
共有部分も見た目や臭いなど気になる点があるかどうか、担当にチェックを入れてもらいましょう。そして必要であれば、管理員さんに掃除や修復を依頼します。
“慣れて”麻痺した感覚で「大丈夫、問題ない」と思っていても、第三者から見ると嫌悪感を覚えるケースは少なくありません。
それで数百万円も売値が下がってしまうのであれば、担当の忌憚なき意見でどこが不快に感じるか、はっきりと指摘してもらう方がいいに決まっています。担当が“遠慮”するようであれば、自分からどこが不快に感じるかどんどん聞いてしまいましょう。
そして買い手が少しでも高く買いたくなるような部屋にしていくのです。
少しでも高く、スムーズに売却を進めたいのであれば、とにかく担当を上手に使う事です。担当とハサミは使いよう、そう覚えていてください。
④広告の出し方のコツを知って、アピール力を上げよう
購入希望者へのアピールも大切ですが、その前に購入希望者を見つける必要があります。それには「広告」が重要となってきます。
広告には次の種類があります。
(1)販売図面(不動産屋の店頭で見かける不動産情報が書かれた図面)
(2)“スーモ”や“アットホーム”などのインターネット物件情報サイト(ウェブ媒体)
(3)折り込みチラシや住宅情報誌などのいわゆる印刷物(紙媒体)
(1)の販売図面に記載された情報がレインズやウェブ媒体、紙媒体への広告に使われるので、(1)が広告内容の基本になると考えていいでしょう。
販売図面の記載内容や記載方法は不動産会社ごとに違っていますが、広告として媒体に掲載する場合は表示規約という物があるので、基本はそれに沿った内容が記載されます。
販売図面に書かれる主な内容は次のようなものです。
・所在地……町名までで、番地は省略される事があります。
・駅などまでの距離……「○○から徒歩○分」と書かれている部分です。
・専有面積……延べ床面積のため、バルコニーや屋根裏収納などは含まれません。
・間取り……数字は居室の数、Lはリビング、Dはダイニング、Kはキッチン、Nは納戸、Sはサービスルーム(建築基準法で決められた居室の条件に満たない部屋)と表記されます。
・構造や階数……鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造などの情報が記載されます。
・築年数……リフォーム内容やリフォーム歴なども記載される事があります。
・設備・仕様……水道光熱関連の情報や、駐車場などはここに記載されます。
あなたのマンションの情報は、この販売図面に込められるわけです。アピールポイントもこの販売図面に記載されます。
しかし面白い事に、オーナーは販売図面に載る情報をチェックする事はほとんどありません。
実は、不動産以外の広告は、必ず広告主のチェックが入ります。ひとつ100円のおまんじゅうを売る場合でも、金額に誤りが無いか、お店の情報は正しいか、紹介文に間違いは無いかを確認した上で、掲載されます。
ところが販売図面に関しては、オーナーのチェックがほとんど無いのです。とすると、間違った内容が載っていたり、ここは絶対入れておいて欲しい情報が抜けていても知らないままでいる可能性があると言う事です。
マンションに少しでも多く付加価値を付、より高く売ろうと思うのであれば、販売図面を放置してはいけません。相手がプロだからちゃんとやってくれるだろう、素人は余計な口出しをしない方がいいと思ってはいけません。何もしない事は絶対に止めましょう。
販売図面作成に当たって、あなたがやるべき事はたったのふたつです。
ひとつは担当営業マンとブレストを行って、アピールポイントを掘り下げる事。
もうひとつは、掘り下げたアピールポイントが、販売図面に反映されているかどうか、確認する事です。基本、オーナーは見る事の無い販売図面ですが、希望すればちゃんとチェックさせてもらえます。
販売図面を見せてもらったら、
・食洗機や床暖房など、自慢の設備について書かれているか。共有部分など魅了がありそうなものがちゃんと載っているか。
・スーパーなどの買い物情報、図書館や児童館などの施設情報は、生活のイメージができるくらいにちゃんと載っているか。
等、ここは絶対載せ無きゃと思うアピールポイントがあるかどうか、しっかりチェックしましょう。
ウェブサイトや印刷物も同じようにチェックしましょう。どんな写真がいいか、もっと写真を載せる事ができるのかなど、見栄えについても、オーナーならではのこだわりを担当にどんどん伝えましょう。
ただし、広告にはできる事とできない事もあります。
特に物件を良く見せたいために、不当な比較広告および誇大広告や虚偽広告、それから実際の物件よりも“著しく優良である事を示す優良誤認表示”は禁止されています。
あなたの希望を前面に押し出すのではなく、どういう形が一番いいのか、担当と良く相談して作り上げるのが良い広告を作るコツです。
そしてどんな広告にしたらいいか迷ったら、新築マンションの広告を参考しましょう。
新築マンションの広告は、写真・地図・構成・文章などそれぞれの分野のプロは集まって作られます。何千万の費用をかけて作られた広告は、当然完成度も高くなります。
一方、中古マンションの場合、広告は素人である不動産業者が先頭に立って作られます。「素人」の不動産業者が写真を撮り、文章も考えてスーモなどの物件情報サイト用広告や販売チラシを作成します。そのチラシも事務職員が、他の事務仕事を兼ねながら作成します。
どうあがいても、完成度の差は歴然です。
そこで、近くに新築マンションが売りに出されていたら、そのホームページやチラシに必ず目を通しましょう。販売開始から数年経っていても、ホームページが残っている場合があります。諦めずに検索してみましょう。
新築マンションの広告には、公園や病院などの基本情報、マンション購入世帯が何に興味あるか、いろいろと書かれています。その内容を「真似」すれば、買い手に響く広告になる可能性が高くなります。
さすがに「コピペ」は不味いですが、どんな内容を載せれば良いか迷ったら新築マンションの広告の良いところを真似すれば、より完成度の高い広告を作る事ができます。
次に広告の出し方のコツです。
ウェブサイトを使って効果的にアピールするには、ただウェブに掲載すればいいというものではありません。効果的な出し方というものがあります。
スーモなどの物件情報サイトで検索した時、ひとつのページに同じ物件が4つも五つも並ぶ事があります。このような、やたらと目にする物件は「売れていない」というイメージを持たれてしまいます。そのために足元を見られて買いたたかれる恐れがあります。
「物件の掲載は、ひとつのサイトにつきひとつ」
これを徹底するように、担当にお願いしましょう。
それから、不動産業界は“みんなで売る”というスタンスで成り立っています。これを上手に利用する手はありません。他の会社――特に大手のホームページやチラシに載せてもらえるよう、担当を通して働きかけてみましょう。
相手がある事なので100%までとはいきませんが、ほぼ間違いなく載せてもらえます。他社物件を掲載する事で、掲載した不動産会社にもメリットがあるからです。他社で取り扱っているものを掲載することで、物件の品揃えも多くなり、その分集客力も上がります。更に成約すれば仲介手数料を得る事も可能です。
こちらが大手を通して広告するメリットは、人目につきやすいという点です。
物件を探す時、大手から探す人は少なくないので、その分買い手も見つかりやすくなります。
それから不動産売却の基本であるレインズもおろそかにしないように気を付ましょう。
特にレインズは全国の不動産会社に物件の情報が行き渡るので、思いも寄らないところから買い手が付く可能性もあります。
と同時に、レインズの掲載内容は、広告と違ってこちらから要求しない限り確認ができません。広告内容のチェックと同時に、レインズの掲載内容のチェックも忘れないようにしましょう。
⑤イメージアップには写真が大事
写真はマンションのイメージを伝える事ができる重要な素材です。広告に使われる写真のできで、買い手の購買意欲が変わってきます。
だからこそ自分のマンションの広告にはでき映えのいい写真を使いたいものですが、現実はなかなかそうもいきません。
中古物件の宣伝写真は、新築と違ってプロのカメランが撮る事はまずありません。物件情報サイトに掲載される写真のほとんどは、不動産会社の社員が撮影した素人写真です。
運良く写真の腕がいい人やセンスのある人だったらいいのですが、そうでない事がほとんどです。
では、どうしたらいいのでしょう。
それはあなた自身で宣伝用の写真を撮る事です。
あなたのマンションやその周辺の「良い」と思ったところを写真に撮り続けるのです。24時間、四季折々の風景をとにかく撮りましょう。数多く撮れば撮るほどプロ顔負けの「奇蹟の一枚」が生まれやすくなるからです。
実はプロのカメランも一回の撮影でかなりの量の写真を撮ります。一枚の写真のために、アングルや光の加減を変え、試行錯誤しながら何十枚も撮るのです。その中で、納得の行く写真を使っているのです。
プロですらそうなのですから、素人たる我々は更に数で勝負していく他ありません。
あなたが自分のマンションや近所の写真を撮る時の一番の強みは、ベストショットを撮りやすいという事です。
例えば、春には桜の見える窓辺を撮ってみたり、冬は近所でイルミネーションがあれば、それを写してもいいでしょう。
都合の付く1日だけを撮影に当てるカメラマンと違い、春の桜、夏祭り、紅葉、イルミネーションなど、“季節の見所”を逃さず撮ることができるのは他でもない、住人のあなたです。季節だけでなく、天気が良くてきれいな青空や白い雲、朝焼け、夕焼けなど、窓やバルコニーからの風景も大切です。しっかり写真に撮っておけば宣伝に利用する事ができます。
外観も青い空があるだけでなく、建物に太陽の光が射す時間帯を狙って撮ると良い写真になります。
普段からカメラを持ち歩いてもいいですし、スマホでも、一眼レフレベルのクオリティの高い写真を撮る事ができるものが増えてきました。これはと思ったら、どんどん写真を撮りましょう。たくさんあればあるほど、使える写真も増えていきます。
この本を読んでいる人の中には、すぐにすぐ売る予定は無いけれど、○○ぐらいの時期には住み替えたいなと思っている方がいると思います。そういう人こそすぐに写真を撮り始めましょう。すぐに売る予定が無いという事は、四季折々、いろいろなシーンを写真撮るチャンスがより多くあるという事なのです。
売りたいと思ったら、まず自宅と周辺の写真を撮り始める、これは絶対にやって欲しい事です。
ただ自宅の写真を撮る時には、注意して欲しい事があります。大きな家具や設備以外の物は基本的に写さないという事です。
写さない方が良い物を挙げてみると
キッチン周り
・スポンジや洗剤
・洗った食器を置く水切りかご
・コンロ周りの鍋やフライ返し
・調味料
・キッチンマット
・冷蔵庫に貼っているプリントやメモ
・電気ケトルやコーヒーメーカーなどの小さな家電
リビング
・カレンダー
・写真立て
・絵画
・クッション類
トイレ
・トイレやトイレットペーパーなどのカバー
・汚物入れ
・掃除用具
風呂
・シャンプー類
・石けん、ボディーソープ類
・化粧品類
・タオル
など、生活感を感じさせるありとあらゆる物は写さないようにします。
イメージは住宅展示場。生活感が無い方が確実にイメージが良くなるのです。今暮らしている人の生活感が出てしまうと、買い手の夢――イメージを損なうからです。
買い手は、新しい家でどんな暮らしをしたいかイメージしながら物件を選びます。売り手の生活感満載の写真に、買い手が“センスが悪い”と感じてしまったらどうでしょう。
物件その物は買い手の条件にマッチしていても、写真の“センスの悪さ”で買う気が失せてしまうのです。
しかし実際の広告写真を目にすると、物をどかさないで撮影した写真をたびたび目にします。
理由や原因はいろいろ考えられますが、担当営業マンがちゃんと指示しなかったのが一番の原因です。「担当営業を上手く使う」ところでも述べたように、営業の“遠慮”があって言わない可能性があります。
実際、物を片付けるには大変な手間がかかります。たいていの担当は厳しい意見を言えません。逆を言えば厳しい意見を言ってくれる営業マンは、頼りになると思っていいです。
私でしたら撮影前に自ら率先して整理整頓します。しかし、そこまでしてくれる担当はなかなかいないでしょう。だとしたら、先ほど述べたように上手く担当を使うのです。
「ここはどうしたら良いですか」
「これ写したくないので、どかすの手伝ってもらえますか」
など、どんどん担当を動かしましょう。
もうひとつ写真を撮る時注意して欲しいのは照明です。
フラッシュを直接当てると、光が強すぎてハレーションを起こして被写体が白くなってしまう事があります。バスルームや洗面台などを撮った写真で、そのようになった物を良く見かけます。
そういう時はフラッシュの光をレフ板に当てたり、天井に向かってフラッシュを当てて、反射した光で撮影するといいでしょう。光が和らいでちょうど良い加減で撮影する事ができます。
レフ板はわざわざ買わなくても、カレンダーの裏側や発泡スチロールの箱など白い物があれば代用できます。もし、写真用に何か機材を買いたいのであれば、フラッシュを買うことをお勧めします。光の加減を調整しやすくなり、より良い写真が撮れるようになるからです。
どんな写真が良いのか迷ったら、新築マンションのチラシを参考にすれば、簡単にグッと良くなります。
天気の良い外観写真、眺望写真、物件の写真など、新築マンションはどんな感じで撮っているのか、良く見てみましょう。構図など、センスが良いと感じた写真を参考にすれば、見栄えの良い写真が撮れますよ。
⑥「買いたくなる」物件にするためには
自宅マンションをより高値で売るためには、オーナーであるあなたの努力も大切になってきます。
あなたがやるべき事をチェックリストにしてみました。
□自宅マンションや周辺環境の「良い」と思ったところをどんどん写真に撮る。
□写真を撮りながら「良い」と思ったところが何だったかメモを取る。
□メモを元に、担当とアピールポイントを話し合う。
□話し合いで出たアピールポイントを元に、販促ツールを作成する。
□広告は必ずチェックをし、「良い」写真をどんどん使ってもらう。
□ウェブに広告を出す時は「ひとつのサイトにつきひとつ」を徹底してもらう。
□大手不動産会社の広告に出してもらうように依頼をする。
□内覧までに、不要な物は片付けておく。
□水回りや台所周りなど、普段、掃除の手が入りにくいところをきれいにする。
□床や壁をきれいにし、痛みが酷い場合は張り替えや補修を行う。
□見学者が来る時は、照明を全部点け、カーテンを全開にする。
□空室となった時は、必ず担当に立ち会ってもらうように依頼する。
以上です。
たくさんあるようですが、専門知識も必要ないですし、そんなに難しい事はありません。
大変なのは、内覧の準備ぐらいでしょうか。しかし「必要経費」と割り切って、業者にハウスクリーニングを依頼する事もできます。
不要な物の片付けも、そもそも引っ越す時にはやらなくてはならない事です。先に引っ越しの準備をすればいいだけで、難しく考える必要はありません。
後は「担当にお願い」してやってもらう事も多いので、担当との関係を良好にしておく事でしょうか。
あなたの熱意と同じくらい、熱い気持ちで物件を売ってくれる担当に巡り会えたら、間違いなくマンションは高値で売れます。
もし、あなたの気持ちと担当の気持ちに温度差がある場合は、担当のモチベーションを上げて、あなたと同じ気持ちにする方法を伝授します。
あなたは大切な資産であるマンションを「より高値で売りたい」と思っています。まず、その気持ちをしっかりと伝える事です。
あなたのこうしたい、こうやりたいを明確に伝える事で、担当は自分がそのために何をすればいいのかが分かってきます。
それから「後回し」にはさせない事。
人は「いつまでにやってください」という期限があると、大体ギリギリになってやる傾向があります。難しい言葉で言うと、「接近勾配の法則」と言います。人間のヤル気はゴールが近づくにつれて上がっていくのです。
何かお願い事をする時、「いつぐらいまでに」と伝えるようにしましょう。そうする事で、中だるみせずに進める事ができます。
そして担当によりヤル気を持たせるために大切な事は、「褒める」事と「感謝する」事です。
例えば広告を見て「すごくいいです。さすが○○さん!ありがとうございます!!」と言われたら、嬉しくならないはずはありません。当然、担当のヤル気も上がりますよね。そしたら、もっとこうしてみたい!と言いやすくなります。
何度も言いますが、あなたがやるべき事は、そんなに難しい事はありません。そして、それをやるかやらないかで、マンションの売値は全然変わってくるのです。
是非、ここでお伝えした事を実践してみてください。
コラム⑨
絶対にやらせてはいけない「鍵取り」
本文でも述べましたが、空室で内覧をする時、やり方は三通りあります。
ひとつは、この本でお伝えしているお勧めの方法、担当営業マン立ち会いの内覧です。残念ながら実施率は4割ぐらいに留まっています。
立ち会いと同じぐらいの割合で行われているのが、現地にキーボックスを設置して、その鍵を使って「勝手に見てください」というものです。
セキュリティ面でどうなの?と思われるこの方法が全体の4割を占めているのは驚きです。それぐらい、仲介業者の担当は手間暇かけずに売りたいのです。
鍵が置きっぱなしだと、セキュリティの不安がある、でも担当はいちいち立ち会いしたくない――この両者の利害が一致したと言えるのが「鍵取り」による内覧方法です。
鍵取りとは、担当営業のいる不動産会社に鍵を取りに来させる。内覧を行う時に、購入希望者側の業者がその不動産会社へ鍵を取りに行き、見学が終わったら、またそこに鍵を返しに行きます。
鍵を紛失したり、悪用される心配も無いですし、担当の手間もかかりません。一見すると、とてもいい方法に思えます。
が、実はこれが空き室見学における、最悪の方法なのです。
鍵取りですが、はっきり言って「面倒くさい」につきます。何故なら、時間も交通費も余計にかかるからです。
例えば、世田谷区にある物件が売りに出されていて、自分のクライアントがその地区で中古マンションの購入を検討していたとします。
興味を持ったマンションがあったので、内覧を行う事になりました。
ひとつは相手側の営業が立ち会って行います。
もうひとつは、立ち会いをしてくれず、鍵を置いてある赤坂の不動産会社まで鍵を取りに行かなくてはなりません。
さて問題です。どちらが大変でしょうか。
答えは簡単。「鍵を取りに行く」です。
立ち会いがある場合、自分のクライアントと相手側の営業との都合をすりあわせて予定が立ちさえすれば、後は自分のクライアントを現地に連れて行くだけ。物件の説明や周辺の情報などは、全部相手側が説明してくれます。
一方、鍵を取りに行く場合です。
まず現地に行く前に不動産会社まで鍵を取りに行きます。仮に物件が自分の不動産会社と同じ駅にあり、物件から不動産会社まで片道30分はかかるとすると、自分の会社→鍵が置いてある会社→物件で、1時間はかかってしまいます。
現地の説明は全て自分。そして終わったら元のところへ鍵を返してから帰社するので、また1時間消費します。
つまり鍵を取りに行って返すだけで、2時間かかってしまったわけです。
もし、内覧希望の物件が複数あって、他は立ち会いであれば、面倒くさい鍵取りは、当然の事ながら後回しにされてしまいます。更に先に見学した物件が気に入れば、当然キャンセルになる可能性も出てきます。
仮に鍵取りで内覧を行ったとしても、物件に詳しい人が立ち会っていないため、購入希望者は魅力を感じにくくなります。つまり、鍵取りは「売れ残る」可能性が大変高い内覧方法なのです。
物件を高く売りたいのであれば、絶対に鍵取りという内覧方法にさせてはいけません。もちろんキーボックスもです。査定額ぐらいで売れればいいやと思うなら、キーボックス方式でもいいかもしれません。しかし査定額以上の高値で売りたいなら、空き室案内は絶対に担当者立ち会いで行う他に選択肢はありません。
空室になった場合、「担当の立ち会いは絶対」です。高く売るために、これだけは必ず担当営業マンへ伝えてくださいね。
コラム⑩
売却を知られたくない、だけど売りたい
マンション売却で少しでも良い買い手を探したいなら、できるだけ多く宣伝をする必要があります。
しかし、中には諸事情により売却を知られたくない売主もいます。
目黒区のAさんもそうでした。
売却を知られないためには
1.スーモなどの物件情報サイトに掲載しない。
2.新聞広告、折り込みチラシ、ポスティングチラシは実施しない。
3.レインズにも掲載しない。
この3条件を守る必要がありました。
つまり、会社のホームページにしか載せる事ができないのです。
このような状態のため、3ヶ月経っても売れず、売主は私に相談に来ました。
そして上の3条件は絶対に遵守して欲しいという事でした。
そこで私はふたつの事を行いました。
ひとつは物件近くの不動産会社を訪問する事。売りに出ている物件の説明をし、アピールポイントをしっかりと紹介しました。
もうひとつは、他社のホームページ掲載でした。
今までは、販売を委託した不動産会社のホームページのみでした。そこで、私は大手や地元の不動産会社複数のホームページに掲載を依頼したのです。
その結果、希望通り知人などに知られずに成約する事ができました。
基本的に、不動産は全不動産屋で販売する仕組みになっています。他社が売り出している物件でも、購入を仲介すれば報酬が入るからです。
最初に依頼した不動産会社は、自分たちで売ろうとしていました。だから買い手が見つからず売れなかったのです。しかし私は「基本通り」、他の不動産会社の力を借りて売る事で成功しました。
これはかなりイレギュラーな例ですが、売り方や広告の出し方は決まっていません。売主であるあなたと相談して決めるものなのです。
今回のように、事情があって売却を知られたくなくても販売は可能なのです。事情がある場合は、ちゃんと話していただければ、最も良い方法で売る事ができるのです。「売っている事を知られたくない」というケースでも、ちゃんと方法はあります。
まずは、自分にどんな希望があるのか、それをはっきり伝える事。それが何より大切です。
6.これであなたのマンションは高く売れる!
この本の始めの方で、担当に伝えるべき言葉として次のものを挙げました。
「今から私がやっておく事は何?」
「ネットに掲載できたら教えて」
「レインズに掲載したら、そのチラシをチェックしたい」
「売主も見られるレインズのパスワードを教えて」
「“囲い込み”はやらないですよね」
「売れなくて空室になった時は、ちゃんと立ち会いをお願いします」
この本を最後まで読んでいただければ、この六つの言葉の意味と理由は分かりますとお話ししました。
そしてここまでお読みになったあなたは、意味も理由もちゃんと分かったはずです。
「今から私がやっておく事は何?」
この言葉で、「少しでも高く売りたい、自分でできる事は何でもします」という熱意を担当に伝える事ができます。その熱意は、マンションを高く売るためには必要不可欠なものです。
「ネットに掲載できたら教えて」
「レインズに掲載したら、そのチラシをチェックしたい」
「売主も見られるレインズのパスワードを教えて」
「“囲い込み”はやらないですよね」
不動産業界の悪習とも言える「囲い込み」をけん制するために、絶対に伝えるべき言葉です。
「売れなくて空室になった時は、ちゃんと立ち会いをお願いします」
空室時の内覧で、少しでも多くマンションの付加価値を伝え高値で売るためには、担当営業マンの力が必要です。そして担当が自分のマンションのアピールポイントを理解するには、事前に“ブレスト”を行ってマンションの魅力を掘り下げる事も大切です。
今まで住んでいた自宅マンションを売って、新しいマンションへ住み替える。
これは紛れも無く人生の一大転機です。
だからこそ、失敗はしたくないと、余計な心配もしてしまうかもしれません。特にこの本では不動産業界のブラックな面もいくつかお話ししてしまいましたので、そこばかり頭に残ってしまった方もいるかもしれません。
でも、心配しないでください。
相手の事分かれば、どうしたらいいのか“打つ手”も分かってきます。
それには「任せきり」をしない事です。
それには「高く売りたい」という気持ちを担当に伝える事。
残念ながら、不動産業界には悪習と呼ぶべき慣例があり、それを防ぐために「やろうとしている事は何であるか、ちゃんと知っていますよ」という姿勢を見せる事。
自分でできる事は自分でやる、一緒にできる事は担当と一緒にやる事。
これだけで、マンションの売値は何百万も変わってきます。
この本でやって欲しいと伝えた事は、誰でもできるような簡単な事です。難しい事は言っていません。
だからこそ、実践してください。
上手に売却して、ご家族みんなが幸せになれるように、1日も早くあなたが今よりも更に幸せになれるよう、心から応援しています。